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山へ入らない日



山へ入らない日
百物語

オリジナル版

 むかしむかし、深い山に入って猟(りょう)をしている、一人の猟師(りょうし)がいました。
 この猟師の猟のやり方は他の猟師たちとは違っていて、まず山奥の高い木に見張りのやぐらをつくって、そこで一夜を明かします。
 そして夜明けにエサを探しにやって来るシカをシカ寄せの笛(ふえ)を吹いておびき寄せて、やぐらの上から鉄砲で撃つというものです。

 ある日の夜明け、猟師は昨日から登っているやぐらの上で目を覚ますと、さっそくシカ寄せの笛を吹きながら辺りを注意深くうかがっていました。
 するとすぐ目の前のやぶの中で、大きな物音がしました。
 見ると目の前の草木が、風もないのにガサガサとゆれています。
(来たな)
 猟師は鉄砲を手にして、動く草木をジッと見つめていました。
 するとやぶの中から出て来たのはシカではなく、おカマのふたほどもある大きな顔の女の人で、みだれた髪は地面までたれ下がっています。
「ば、ばっ、化け物じゃ!」
 猟師は思わず、鉄砲を木の下へ落としてしまいました。
 女の化け物は猟師に気づいて、ニタニタと気味悪く笑っています。
 しかし化け物は猟師がいる木に近づこうとはせず、落とした鉄砲には見向きもしません。
 化け物はしばらく猟師を見つめながら笑っていましたが、やがてやぶの中へ姿を消してしまいました。
(たっ、助かったのか?)
 猟師はやぐらの上からおりると、鉄砲の事も忘れて逃げ出しました。
 そして走って走って家にたどり着いたとたん、猟師はそのまま倒れて気を失ってしまいました。

 数日後、意識を取り戻した猟師は、心配して集まっていた近所の人たちに山奥で出会った化け物の話をしました。
 するとそれを聞いていた、一人の老人が言いました。
「なるほど、それはひどい目にあったな。
 だがそれは、お前があまりにも殺生(せっしょう)をするからだ。
 命があったからよかったものの、二度とそんな目に会いたくなければ、殺生を止める事じゃな」
「ああ、そうする」
 猟師はそれっきり、猟師を止めてしまいました。

 この事があってから、猟師の村では十月の十七日を山神さまの祭り日として、決して山に入らない様にしました。
 もしもこの日に山へ入ると、必ず化け物に出会うと言われています。

おしまい

この作品は、読者からの投稿作品です。


作者 :つれづれ居士
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