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ともかづき
ともかづき
百物語
オリジナル版
むかしむかし、伊勢の海辺の村に、みよという娘の海女がいました。
この伊勢の海には、『ともかづき』と呼ばれるお化けがいて、海女たちから恐れられていました。
そこでみよが海女になったばかりの時、先輩の海女たちからこう教えられたのです。
「いいかい、みよちゃん。
ともかづきは、あたしたちと同じ海女の姿で現れて、
『アワビを、あげよう』
と、言うけど、それを手で受け取ってはいけないよ。
手で受け取ると、ともかづきに手首をつかまれて、海の底に引きずり込まれてしまうからね。
どうしてもそのアワビが欲しい時は背中を向けて、背中にはりつけてもらうんだよ」
「はい」
みよは先輩海女の教えを守って、ともかづきに会わない様に気をつけていました。
ある年の秋の事、しけが続いて、もう七日も海に潜れません。
「困ったわ。このままでは、ご飯を買うお金がなくなってしまう」
そこでみよは家族が止めるのも聞かずに、しけのおさまりきらない海へと小舟を出したのです。
しかしいくら海に潜っても、アワビもサザエも見つかりません。
「駄目だわ。もっと別の場所に行かない」
そこでいつもと違う場所へ潜っていくと、海草の間から、おばあさんの海女が大きなアワビをかかえて現れました。
そしてみよに、こう言いました。
「おや、こんな日に潜るなんて、えらい娘さんだね。さあ、このアワビをあげるから、遠慮しないで持っておゆき」
(まあ、なんて親切な海女さんだろう)
みよは喜んで、そのアワビを手で受け取りました。
そのとたん、おばあさんはニヤリと笑って、みよの手首を力一杯つかみました。
「ああ、やっと身代わりが来た。これで成仏できるよ」
そしておばあさんは、みよを海の底へと引っ張ったのです。
(あーっ、しまった! ともかづきだ!)
みよは必死でもがきましたが、そのまま海の底へと沈んでしまいました。
ともかづきは海で死んだ海女の幽霊で、自分の身代わりになる海女を作らないと、いつまでも成仏できないと言われています。
そして今でもこの海では、死んでともかづきになったみよが、自分の身代わりになる海女が来るのを待っているそうです。
おしまい
この作品は、読者からの投稿作品です。
作者 :つれづれ居士
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