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          幽霊絵馬 
         
        
         
         
        幽霊絵馬 
        百物語 
         
        オリジナル版 
      
       むかしむかし、京都の革堂(こうどう)とよばれるお寺の近くに、質屋の八左衛門(はちざえもん)という男がいました。 
 この八左衛門はお金持ちでしたが、強欲な為にみんなから嫌われていたので、子どもが生まれても子守りのなりてがありませんでした。 
 そこでやっと、遠く近江(おうみ→滋賀県)の農家から、フミという十三歳の女の子をやとったのです。 
 フミの母親は、自分の手鏡(てかがみ)をフミに渡して言いました。 
「フミや。これを母だと思って、さびしくてもこらえておくれよ。風邪には、気をつけるんだよ」 
「うん、フミがんばる。お母ちゃんも、元気でね」 
 
 八左衛門の家に着いたフミは、その日から子どもの世話をしました。 
 子どもがむずかると、おんぶをして家の周りをあやして歩き、おしめがぬれるとすぐに取り替えてやりました。 
 
 さて、すぐ近くのお寺の革堂は西国三十三ヶ所のお寺の一つなので、巡礼(じゅんれい)の人でいつもお祭りの様ににぎわっていました。 
  白い着物姿の巡礼たちは、革堂の観音さまの前で鈴をならしてご詠歌(えいか→巡礼または仏教信者などが歌う、和歌・和讃にふしをつけたもの)をとなえます。 
♪はなーをーみて (花を見て) 
♪いーまーはー (今は) 
♪のぞみーもー (望みも) 
♪こおーどーうのー (革堂の) 
♪にわーのーちぐさーもー (庭の千草も) 
♪さかりーなーるーらん (盛りなるらむ) 
 ご詠歌は仏さまをたたえる歌で、それを聞いたフミは、ご詠歌がいっぺんに好きになりました。 
 そこでフミは、毎日子どもをおぶって革堂へかよいました。 
 そのうちにフミは背中の子をあやしながら、ご詠歌を口ずさむ様になりました。 
 ところがこれを知った八左衛門が、かんかんになって怒りました。 
「うちの寺は、宗派が違うんやで! 
 それに、そんないん気くさい歌は大嫌いや! 
 革堂なんかに行くから、そんな歌を覚えるんや。 
 今度革堂へ行ったり、ご詠歌を歌ったりしたら、承知せえへんで!」 
「・・・はい」 
 フミは言いつけを守って、革堂へ行くのをがまんしました。 
 つらい事があると母親の手鏡を見ましたが、でも、鏡は何も言ってくれません。 
「ああ、ご詠歌を聞きたい。ご詠歌は、近江のお母ちゃんの声を聞いてる様だもの」 
 やがてフミはがまん出来ずに、革堂へ行ってしまったのです。 
 お参りの人のご詠歌に小声であわせていると、フミは悲しい事を忘れる事が出来ました。 
 でも、八左衛門には内緒でした。 
 
 ある寒い冬の事、フミが家の中で子守りをしていたら、背中の子どもが、たどたどしい口ぶりで、ご詠歌を歌い出したのです。 
 いつもフミと一緒にご詠歌を聞いていたので、覚えてしまったのです。 
 それを聞きつけた八左衛門は真っ赤になって飛んで来ると、フミを裸にして庭に引きずり出しました。 
「ごめんなさい。ごめんなさい!」 
 フミが泣いて謝っても、八左衛門は許しません。 
 八左衛門は裸のフミに、頭から氷の様に冷たい水を浴びせました。 
 そしてフミを納屋(なや→物置)に放り込むと外から鍵をかけて、そのまま寝てしまったのです。 
 
 次の日の朝、ふと目を覚ました八左衛門は、フミの事を思い出しました。 
 そしてあわてて納屋を開けると、裸のフミはもう、凍え死んでいたのです。 
「どないしょう。世間に知れたら、大変や」 
 そこで夫婦は納屋に穴を掘ると、フミの死体を埋めて隠しました。 
 そしてフミの両親には、 
《フミは好きな男が出来て、家出をした》 
と、うその知らせをしたのです。 
 
 知らせを受けたフミの両親が、近江から飛んできました。 
 でも八左衛門は、逆に文句を言い出す始末です。 
「こっちは子守りがいなくなって、困っている。どうしてくれる!」 
「申し訳ありません。申し訳ありません。必ずフミを探し出して、子守りを続けさせますから」 
 フミの両親は八左衛門に謝ると、京の町を探し回りました。 
 そして道行く人から、 
「そう言えば、よく革堂というお寺で、子守りをしてはりましたなあ」 
と、聞いたので、両親は革堂の観音さまの前で、ご詠歌をとなえておがみました。 
「観音さま、どうかフミの居所を教えてください」 
 両親はそのままお堂に泊まり込み、おこもり(→神仏に祈願する為、神社や寺にこもる事)をしました。 
 すると真夜中、両親は、誰かがいる様な気がして目を覚ましました。 
 暗闇に目をこらすと、お堂のすみにフミのかげが立っているのです。 
(フミ!) 
 呼びかけ様としましたが、二人とも声になりません。 
 近寄ろうにも、体がしびれて動けません。 
 するとフミが、口を開きました。 
「お父ちゃん、お母ちゃん。 
 わたしはもう、この世にはいないの。 
 わたしは主人に殺されて、納屋の冷たい土の中に埋められたの。 
 ここは、寒い。 
 ここは、暗い。 
 どうか掘り出して、供養をしてください」 
 そう言うとフミの幽霊は、すーっと消えました。 
 そしてフミの幽霊がいた場所には、母親が持たせたあの手鏡が置かれていました。 
 
 フミの両親は奉行所にうったえて、フミの死体を探し出すと、ねんごろにとむらいました。 
 そしてこの悲しい出来事を忘れない様にと、フミの幽霊姿をそのままの大きさで杉板(すぎいた)にうつしとり、形見の鏡をはめ込んだ大きな絵馬にして革堂におさめました。 
 もちろん、幽霊に罪をあばかれた八左衛門は、奉行所に引き出されて罰を受けました。 
 フミのとむらいが終わった両親は巡礼になって、ご詠歌を歌いながら西国の寺を巡りました。 
 
 このあわれなフミの幽霊絵馬は今も革堂にまつられており、毎年お盆の八月十五日、十六日に公開されています。 
      おしまい 
      この作品は、読者からの投稿作品です。 
           
         
      作者 :つれづれ居士         
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