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日本の悲しい話 第1話
ゆうれいのそでかけ松
むかしむかし、漁師が川に船を出して、夜釣りをしていました。
ところが、どうしたことか、きょうは一匹も釣れません。
「今夜は、あきらめて帰るとするか」
漁師がそう思っていると、釣りざおがとつぜん、弓なりになりました。
めったにない、大物の手ごたえです。
よろこんで引き上げると、
「・・・へっ? ギャァァァーー!」
釣り糸の先には、若い娘のなきがらがひっかかっていました。
「わわぁ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
漁師は、なきがらを捨てるわけにもいかず、船に引き上げました。
「ああ、かわいそうに・・・」
漁師は、娘のなきがらを近くのお寺にはこんで、和尚(おしょう)さんにとむらってもらいました。
すると次のばんから、お寺の古い松の木の下に、あの若い娘のゆうれいがあらわれはじめました。
「手あつくほうむってやったのに、まだ、この世にうらみでもあるのだろうか?」
和尚さんがふしぎにおもっていると、むすめのゆうれいがあらわれて、
「先日は、ありがとうございました。まよわず、あの世へいきたいのですが、心残りが・・・。ひとこと、おききくださいませんか」
かすかな声で、いいました。
「なんなりと、はなしなさい」
「はい。じつは、好きな人のもとへ、お嫁(よめ)にいくことになっていたのですが、家がまずしいため、嫁入りの着物がつくれないでいました。そのため、せっかくの縁談(えんだん)が、こわれてしまったのです」
「それはさぞ、つらかったろう。よしよし、いまとなっては手おくれながら、わしが、嫁入りの着物を、そろえてやろう」
和尚さんがいうと、むすめのゆうれいはなみだをふいて、フッと消えさりました。
あくる日、和尚さんはやくそくの着物をかってきて、ふるいマツのえだにかけておきました。
すると、夜中にむすめのゆうれいがあらわれて、着物をきがえていったのでしょう。
嫁入りの着物は消えて、かわりに、娘がおぼれて死んだときの着物のそでが、えだにかけられていました。
そのときから、このマツは「ゆうれいのそでかけマツ」と、よばれるようになったのです。
おしまい
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