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3月17日の日本の昔話
  
  
  
  ステレンキョウ
 むかしむかし、お奉行所(ぶぎょうしょ)の前に、高札(こうさつ)がたって、おおぜいの人が集まっていました。
   漁師の浜介(はますけ)がとおりかかって、
  (いったい、何ごとだ?)
  と、そばヘよってみましたが、字がよめないので、近くの人にきいてみますと、けさがた浜で、きみょうな魚が取れたとのことです。
   そしてその魚の名前がわからないので、いいあてた者には金子百両(七百万円)をあたえる。
  と、書いてあるということです。
  (魚のことなら、まかせておけ)
  と、浜介はさっそく、お奉行さまの前に出て、その魚を見せてもらいました。
  (なるほど、これは見たこともねえ魚だ)
   きみょうなさかなにビックリしていると、お奉行さまが、
  「これ、浜介とやら、それなる魚の名は、なんともうす?」
   とつぜんきかれて、浜介は、
  「ヘえ、テレスコともうしやす」
  と、うっかりいってしまいました。
  「テレスコともうすか。テレスコ。なるほど。よう知らせてくれた。ほうびを取らすぞ」
  と、いうわけで、浜介は百両という大金をもらって、とぶように女房のところヘ帰りました。
   さて、それからひと月ほどたった、ある日のこと。
   また、お奉行所の前に高札がたっていて、おおぜいの人が集まっています。
   高札には、
  《ふしぎな魚がおるが、名前がわからぬ。名前をいいあてた者には、ほうびとして金子百両をあたえる》
  と、前とおなじようなことが書いてありました。
   浜介は、またお奉行さまの前に出て、魚を見せてもらいます。
  「浜介、そこなる魚の名は」
  「ヘえ。これは、ステレンキョウともうしやす」
   浜介がいうと同時に、お奉行さまはきつい声で、
  「ここな、ふらち者めがっ! これなる魚は、前の魚を干したものじゃ。浜介、そのほう、前にはその魚をテレスコともうし、今日はステレンキョウともうしたな。お上をあざむき、またも金子をねらうとは、かさねがさねのふとどき者。打ち首の刑をもうしつけるぞ!」
  と、いうわけで、浜介は牢屋(ろうや)に入れられました。
   さて、今日はいよいよ、打ち首になるという日です。
   お白洲(おしらす→罪人を取り調べる場所。奉行所のこと)にひきだされた浜介は、これが最後の別れというので、女房や子どもに、ひと目あうことをゆるされました。
  「これ浜介。あとにのこる妻や子に、何かいいのこすことはないか?」
  「はい、お奉行さま」
   浜介はうしろ手にしばられたまま、女房子どものほうをむくと、しみじみといいました。
  「いいか、おまえたち。これから先、たとえどんなことがあろうと、けっしてけっして、イカを干(ほ)したのを、スルメというでないぞ」
   いいおわると、浜介の日やけしたほほに、涙が流れました。
   そのとき、お奉行さまはポンとひざをたたいて、
  「それっ。いそいでなわをとけ!」
  と、家来にいいつけてなわをとかせると、今度は自分が涙を流して、
  「これ浜介。わしが悪かった。イカを干せばスルメ。テレスコを干せばステレンキョウになるのか。なるほど、なるほど」
と、いうわけで、浜介はまたほうびの百両をもらって、女房子どもとつれだって、仲よく家ヘ帰りました。
おしまい