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3月29日の日本の昔話
  
  
  
  むこのひとつおぼえ
 むかしむかし、ある山おくの村に、せけんのことをよくしらない男がいて、めでたく嫁さんをもらいました。
   しばらくすると、嫁さんの家から、
  「ごちそうしたいから、遊びにきなさい」
  と、たよりをもらいました。
   男がいくと、嫁さんの家のひとたちがもてなしてくれたあげく、みやげにお金をたくさんくれました。
   でも、男はお金をみるのが初めてで、つかったことがありません。
   ふところに入れて帰っていくと、とちゅうの沼に、たくさんのカモ(→詳細)がいました。
  「あのカモをみやげにしてやろう」
   男はカモを取ろうと、ふところのお金を、石のかわりに投げつけましたが、いくら投げてもあたりません。
   お金をみんななくして、手ぶらで帰っていきました。
   男が家の嫁さんに、このことをはなすと、
  「そういう大事なものをもらったら、さいふに入れて、しっかりもちかえるものだ」
  と、おしえました。
   しばらくたったある日、男が嫁さんの家にいくと、
  「大事なウマを、一とうやろう」
   げんきのいいウマをくれました。
   男は、とちゅうまでウマをひいてくると、
  「そうだ、大事なものは、さいふに入れろといわれたっけ」
   ウマの頭に、さいふをかぶせて、おしこめようとしました。
   ウマはいやがって、いうことをききません。
   男がはらをたてて、ウマのおしりをドンとたたくと、ウマは死んでしまいました。
   このはなしをきいた嫁さんは、
  「そういうものをもらったら、首になわをつけて、はいどう、はいどうと、ひいてくるもんだ」
  と、おしえました。
   その次に、男がいくと、
  「今度は、茶がまをもっていきなさい」
   りっぱな茶がまをもらいました。
   そこで男は、茶がまの首になわをかけて、ガラガラと、ひきずりながら帰ってきました。
   家にたどりついてみると、茶がまはそこがぬけてしまって、つかいものになりません。
   嫁さんはこれをみて、
  「そういうものをもらったら、こわれんよう、大事に手にさげてこねば」
  と、おしえました。
   その次に、男がいくと、
  「今度は、お手伝いのむすめをやろう」
  と、いわれました。
   男は、こんどこそしっぱいしないよう、むすめのおびをつかんで、手にさげようとしたところ、むすめはおこって、とっとと逃げてしまいました。
   嫁さんは、そのはなしをきくと、
  「そういうときには、むすめのあとになり、先にたちして、おてんきのはなしでもしながら、ゴキゲンを取りつつ、つれてくるもんだ」
  と、おしえました。
   その次に、男がいくと、
  「今度は、びょうぶをもっていきなさい」
   りっぱな金びょうぶをくれました。
   男はびょうぶのあとになったり、先にたったりして、ゴキゲンを取りながら、
  「今日は、いいてんきだなあ」
   びょうぶにはなしかけるのですが、びょうぶはついてくるけはいがありません。
   男はびょうぶをのはらにおいたまま、家に帰っていきました。
   嫁さんは、そのはなしをきくと、
  「そういうときには、かついでくるもんだ」
  と、おしえました。
   その次にまた、男がいくと、
  「今度は、よくはたらくウシをやろう」
   りっぱなウシをくれました。
   男は、今度という今度は失敗しないよう、ウシの腹の下にもぐって、ウシをかつぎ上げようとしました。
   するとウシがおこって、男におそいかかりました。
  「たっ、たすけてくれー!」
   男は命からがら、家に逃げかえりました。
   嫁さんの家には、それっきり、いかなくなったということです。
おしまい