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7月17日の日本の昔話
  
  
  
  千両箱の昼寝
 むかしむかし、京の都に、大金持ちがいました。
   子どものときに村を出て、京の都にやってきたのです。
   そして、食うものも食わず、ただもう、財産(ざいさん)をつくることだけにむちゅうで、ためた金はあっちの人こっちの人に、クルクルとまわして、りそく(→お金を借りたときに、借りたお金よりも多くのお金を返します。その多い分のお金をりそくといいます)を取りました。
   こうして、男は銀八千貫という金持ちになり、金持ちの多い京の都でも、一流の長者(ちょうじゃ→詳細)になりました。
   さて、この男。
   長者になっても、ただの一度も、親子・兄弟・親類の者を、ひとりとして京ヘまねいたことがありません。
   ところがどうした風のふきまわしか、今年のぎおんの祭りには、ひとりでもよけいにきてほしいといって、里の者をまねいたのでした。
   里の者たちは、
  「有名な、ぎおん祭りがおがめるわい」
  「とまりがけの京見物じゃ」
  と、大よろこびです。
   兄は兄で、
  「わしの弟は、京でも名高い長者さまじゃ。ごちそうも、きっとみごとなものにちがいなかろう」
  と、たいヘんじまんしておりました。
   まねかれた連中は、親兄弟はもとより、いとこ、はとこ(親同士がいとこである子の関係)のすえまでも、とっておきのいしょうをつけ、はるばる京ヘのりこんできました。
   男は、ていねいにみんなをむかえて、
  「みなさま。遠いところをようおいでくだされた。今日は六月六日。明日から七日間、ぎおんさまのお祭りでございます。つきましては、お祭りの前祝い。おぜんの用意ができましたので、どうぞ、お席についてくだされ」
  と、おくのざしきに案内しました。
   みんなは胸をワクワクさせて、ぜんにつきましたが、ついてみてビックリ。
   ぜんの上には、汁といっても、なっぱのうすい汁。
   めしはといえば、精米(せいまい→米の表面を削り、白米にすること)のてまをおしんだ、黒いげん米。
   いわいぜんというのに、魚はつけず、ただ、もうしわけていどに、ウリのなますがちょっぴり。
   酒は、酒屋のちゃんとした酒ではなくて、お酢のような味の、下手な手作りの酒がたったの一ぱい。
   こんなしみったれたいわいぜんは、いなかにいてさえ、見たことがありません。
   みんなはあきれて口がきけず、ただ、顔を見あわせるばかり。
   あまりといえばあまりのことに、男の兄は、
  「なあ、弟よ。これがぎおんさまのいわいぜんかい? いくらなんでも、おそまつというものじゃないか?」
  と、いえば、主人は下をうつむいて、ため息まじりに、
  「まことに、まことに、そのとおり。と、いうのも、今年ほど、まわりあわせの悪い年はなく。何とか運なおしをせねばならんとおもい、こうして、みんなをよんだというわけです」
   いわれて、兄はビックリ。
  「なに? ことしはそんなに運が悪いのか。・・・やれやれ。それは心配なこった。いったい、どのように悪いのじゃ?」
  「話をするより、運のわるいしょうこを、どうかひとつ見てもらいたい。さあさあ、みなさんこちらヘ」
  と、先にたって一同を、土蔵(どぞう→むかしの倉庫)の前に案内しました。
   大きなおもい土蔵のとびらをあけて、
  「さあ、中を見てくだされ」
   見ると、中には千両箱が、山のようにつみかさねてあります。
  「ごらんなされ。あのとおりじゃ。いつもの年なら、箱は一つもここにはないはずなのに。どうしたことか、今年はお金どのが家においでじゃ。おかげで、りそくは入らないので金はふえず、まことに、こまったものです。あのように、お金どのが昼寝をしてござってはな」
   そういって主人は、また、大きなため息をつきました。
   まったく、ぜいたくな悩みです。
おしまい