日本の有名な話 第15話
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ネズミの名作
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
この吉四六さんの村の庄屋(しょうや)さんときたら、大がつくほどの骨董(こっとう→価値のある古い美術品)好きです。
古くて珍しい物は、どんな物でも集めて、人が来ると見せては自慢していました。
ある日の夕方。
吉四六さんが、庄屋さんの家へ来ると、
「おう、吉四六さんか。良い所へ来てくれた。お前に見せたい物がある」
「また、骨董ですか?」
「まあ、そんな顔をせんと、とにかく見てくれ。
なにぶんにも、天下に二つとない立派な品じゃ」
そう言って庄屋さんは床の間から、いかにも得意そうに黒光りのする小さな彫り物を持って来ました。
「庄屋さん。これはネズミの彫り物ですね」
「さよう。生きておって、今にもそこらを走りそうじゃろう。
見事なもんじゃ、左甚五郎(ひだりじんごろう)はだしといわにゃなるまい。
こんな名作を持っておる者は、日本広しといえど、わし一人じゃろう。ワッハハハハ」
庄屋さんが、あんまり自慢するので、吉四六さんはつい、
「庄屋さん。実は、こんなネズミの彫り物なら、わたしの家にも名人の彫った物があります。
その方が、ずっと良く出来ております」
と、言いました。
庄屋さんは自慢の鼻をへし折られたので、すっかり機嫌を悪くして、
「お前なんぞの家に、そんな立派な物があってたまるかい!」
「いいえ、ありますとも。ちゃんとあります」
吉四六さんも、こうなったら負けてはいません。
「わたしのは先祖代々の宝で、天下の名作です。
庄屋さんのこんなネズミなんか、話になりません」
「なんじゃと!
お前の家などに、そんな物があってたまるか!
もしあるなら、わしに見せてみい。
ここヘ持ってきて、見せてみい!」
「はーい、明日持って来ますよ」
「きっとだぞ!」
「ええ、きっと持って来ますとも」
吉四六さんは家に帰りましたが、吉四六さんの家にはそんなネズミの彫り物などありません。
「これは、ちょいと困ったな。えーと、どうしようか。
・・・待てよ。うん、そうそう。これはうまくいきそうだ」
ニヤリと笑った吉四六さんは奥の部屋に入ると、障子(しょうじ)を閉めきって、何かをコツコツ刻み始めました。
実は自分で、ネズミの名作を作ろうというのです。
夜通しかかって、朝日が部屋に差し込んできた頃、ようやく完成しました。
「出来た!
これで、庄屋さんを負かす事が出来るぞ」
吉四六さんは刻み上げたネズミを風呂敷に包むと、庄屋さんの家まで走って行きました。
「おはようございます、庄屋さん。これが昨日話した、わたしの家の宝物です。名作です」
と、風呂敷から、いかにも大事そうに彫り物を取り出して、
「どうです。このネズミこそ、本物そっくりでしょう」
と、一晩かかって彫り上げたネズミを、庄屋さんの前に差し出しました。
「・・・?
ぶぶぶーっ!」
庄屋さんは、思わず吹き出しました。
「何を笑いなさる。
このネズミに比べたら、庄屋さんのネズミなんぞは、恥ずかしゅうてそばヘも寄れません。
はよう持って来て、比べてごらんなされ」
「何じゃと!」
庄屋さんは、さっそく自分のネズミを持って来ました。
比べてみるまでもありません。
吉四六さんのネズミは、素人の一夜作り。
庄屋さんのネズミは、名人の作品です。
それでも吉四六さんは、自分のネズミの方が素晴らしいと褒めちぎりました。
「えーい。お前といくら言い合っても、話にならん。
和尚(おしょう→)さんにでも、立ち会ってもらおう」
と、言うので、吉四六さんは、
「よろしい。立ち会ってもらいましょう。だけど、ちょっと待って下さいよ。
ネズミを見分けるのなら、寺まで行かずとも、ほれ、そこにおるネコの方がよろしかろう」
「ネコ・・・?
なるほど。では、ネコの飛びついた方が勝ちじゃ」
「はい。では、もしわたしの方に飛びついたら、庄屋さんのネズミは頂きますよ」
「おお、いいとも、いいとも」
と、言うわけで、二人のネズミを床の間に並べてネコを連れて来ると、これはビックリ。
ネコはいちもくさんに、吉四六さんのネズミに飛びつきます。
「あっ!」
庄屋さんが、ビックリするひまもありません。
ネコはネズミをくわえたまま、素早く庭へ飛び降りて、どこかへ行ってしまいました。
「吉四六の勝ちじゃ!
庄屋さん、約束通りこのネズミはいただきますよ」
吉四六さんは床の間に残った庄屋さんのネズミをつかむと、家ヘ帰りました。
そして、庄屋さんのネズミをつくづくとながめて、
「なるほど。こりゃ立派な彫り物じゃ。おかげで、家にも宝物が出来たわい」
実は吉四六さんが一晩かかって作ったネズミは、ネコの大好物のカツオブシで作ったネズミだったのです。
おしまい
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