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元旦の小話

ぞうきんとお年玉
   あるところに、何ごとにも、えんぎをかつぐだんながいました。
   そのおかげか、店ははんじょうしています。
   ある年の、大みそかのこと。
   だんなが店のものにいいました。
  「あしたは、めでたいお正月じゃ。お正月の神さまをおむかえするのだから、いつもより、ねんいりにそうじをしなさい」
   この店に、はたらきものの女の人がいました。
   名前を、「おたけさん」といって、だれよりもはたらくのですが、そそっかしいのが玉にきず。
  「すみからすみまで、ぞうきんをかけよっと」
   おたけさんがはりきって、床の間をふいていたときです。
  「おつかいにいってきておくれ」
   おかみさんがたのみました。
   そそっかしいおたけは、ぞうきんを床の間においたまま、おつかいに飛び出していってしまいました。
   おつかいから帰ったおたけは、ぞうきんがけがおわっていないのをわすれて、だいどころしごとをはじめてしまいました。
   さて、がんたんの朝。
   だんなが、床の間のかけじくを、おめでたい『七福神(しちふくじん)』に、とりかえようとすると、よごれたぞうきんが、ポンとおいてあるではありませんか。
   だんなはカンカンにおこりました。
  「正月というのに、こんなものをおくなんて、えんぎでもない。おたけのしわざだな。おたけ!」
   おたけをよんで、しかりつけました。
   すると、とんちのきくこの店の番頭(ばんとう→従業員のリーダー →詳細)が、
  「だんなさま。ぞうきんは、えんぎが悪いだなんて、とんでもありません」
  と、口をはさみました。
  「なに。よごれたぞうきんなのに、えんぎがいいとは、どういうわけだ」
  「ぞうきんを、あて字で書けば、蔵(ぞう→くら)と金(きん→かね)。蔵(くら)に金(かね)がたまるというわけです」
   番頭にいわれて、だんなは大よろこび。
  「なるほど。これは、えんぎがいいわい」
 だんなは番頭とおたけに、お年玉をどっさりとあげました。
おしまい