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1月26日の小話
どろぼうのおあいそ
   夜中に亭主は、何やらあやしい物音に目がさめました。
  ゴシゴシゴシゴシ
  ゴシゴシゴシゴシ
   たしかに、のこぎりで、かベをきりやぶっている音。
  「ははあ、どろぼうだな」
   亭主はおきあがると、かベのそばヘにじりよって、身がまえました。
   やがて、かベがガサッとおち、そのあなから、にゅーっと手が入ってきました。
   亭主はその手を、ギューッとつかんで、
  「女房、そこの銭、二百文(六千円ほど)よこせ」
   亭主にわめかれて、女房おどろいておきあがり、
  「えっ、どろぼうですって、まあ、こわい」
  「えい、はやくよこせ、二百文、二百文」
   女房が、ふるえる手で二百文さし出すと、亭主はそれをどろぼうの手ににぎらせ、
  「おれは、目をさましてとくをしたが、おまえはどろぼうしそこなって、そんをしたな。さあ、この二百文でかんベんせい。だが、こんなこと、二どとふたたび、するでないぞ。つぎはゆるさぬからな」
  と、手をはなしました。
   やがて、逃げてゆくどろぼうの足音。
   ところが、しばらくすると、足音がかえってきて、また、かベのあなから、にゅーっと手を出すではありませんか。
  「えい、ずうずうしいやつ。つぎはゆるさぬと、いっただろう!」
   亭主が腹をたてて、かべのあなにちかづくと、
  「ほんの駄菓子(だがし)でございますが、お子さまがたにあげてください。さきほどは、まことにありがとうございました」
と、紙包みをさし出したそうな。
おしまい