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6月16日の小話
タイのおかわり
   タイの大好きな殿さまがいました。
   ごはんのときにタイがないと、ごきげんななめになってしまいます。
   そこで、けらいたちは、タイをきらさないよう、まい日、気をつかっていました。
   ところがある日、ひどいあらしのため、タイが一ぴきしか手に入りません。
   けらいが、そのタイをやいて出すと、とのさまはさっそく、はしをつけました。
  「こりゃあ、うまい!」
   たちまち、おもてがわを食べてしまうと、
  「おかわりをもってまいれ」
   けらいにいいつけました。
   とのさまはいつも、タイをおもてがわしかたべないのです。
  「これはもう、さげてよいぞ」
  「ははーっ」
   さて、けらいたちはこまりました。
   かわりのタイなどありません。
  「どうしよう」
   けらいたちが、ヒソヒソ、そうだんしていると、だいどころで、はたらいていた女中(じょちゅう→住み込みのお手伝いさん →詳細)が、
  「頭の悪い人たちだなあ。お殿さまはどうせ、タイのかたがわしかたべないのだから、ひっくりかえして出せばいいのに」
  と、いいました。
  「なるほど、それしかあるまい」
   けらいたちは、タイのうらがわをおもてにして、おそるおそるさしだしたところ、
  「おお、ずいぶんと、はやくできたな。けっこう、けっこう」
 とのさまは、ごきげんで、「パクパクパク」と食べました。
おしまい