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8月8日の小話

けち
   むかしむかし、ある村に大そうけちな亭主がいました。
   けちもけち、そのけちぶりは、あたりの村々でだれひとり知らん者はいないほどでした。
   ある日のこと、亭主はえんがわでくぎに足をひっかけました。
   見てみると、古いくぎの頭が出ています。
   亭主は女房を呼ぶと、
  「おい、となりへいって金づちをかりて来い、三年前に一度、はかりを貸してやったことがあるで、まさかいやとは言わんじゃろ」
   女房はさっそく、となりまでいきましたが、いつまでたっても戻って来ません。
   もうしばらくしてやっと、帰ってきたと思うと、
  「ねえ、あんた。何に使うかときかれたんで、くぎを打ちこむんですと言うと、そんなもん打たれたら、金づちがへってしまうと、いうんですよ」
「なんだと、とんだけち野郎だ! そんならしかたない、もったいないが、我が家の金づちを使うとするか」
おしまい