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8月21日の小話

かさ売り
   ある男が、からかさをつくる商売をはじめ、最初に十本ばかりつくり、広げたままのりが乾くのを待って、さて、たたもうとしましたが、いっこうにかさはたためません。
   むりにたたみますと、「バリバリバリッ」と、さけてしまいます。
  「はて、どうしたものか」
   男が、しまつにこまっておりますと、きゅうに、夕立がふりはじめました。
  「そうだ。よい思いつきがあるぞ」
   男は、からかさをひらいたまま、町の十字路に立ち、
  「すぐに使えるよう、かさを開いたまま売っております。さあ、雨にぬれぬうちに、はい、はい、どうぞ」
  と、いって声をはりあげると、かさは、たちまちなくなりました。
  「やれやれ、うまくいった」
  と、家に帰って、となりの家の人に、
  「からかさをのこらず売ってきた」
  と、いうと、となりの家の人は、
  「そりゃあよかった。ところで、いくらで売ったのかな」
   すると、男は、
「おおー! あまりにいそがしくて、金をもらわずに売ってしまった」
おしまい