
  福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 11月の江戸小話 > 将棋がたき
11月9日の小話
将棋がたき
   横町のいんきょと、表通りのいんきょが、二人で将棋をさしています。
   どうやら横町のいんきょのほうが、二回続けて負けて、この三回めも負けそうです。
  「待った、待った」
   横町のいんきょが待ったをすると、
  「いや、待てぬ。これで二回も待ったをしたのだ、もう、だめだ」
  と、表通りのいんきょは、冷たくいいます。
  「もう、一度だけだ、たのむ」
  「いいや、だめだ」
  「そこを何とか、たのむ」
  「だめだったら、だめだ」
   しまいには、
  「なにをー!」
  「なにぃー!」
  と、いって、将棋盤(しょうぎばん)をひっくりかえすしまつ。
  「もうおまえとは、一生、将棋はささんぞ」
   おこって、別れてしまいました。
   ところが、ふたりとも、その日の夕方にもなりますと、なんとなくそわそわ。
  「あのとき、待ったをしてやりゃあよかった」
  「あのとき、すなおに負けを認めていれば、いまごろは、酒をくみかわして・・・」
  と、しきりに、けんかをしたことがくやまれてなりません。
   そこで、横町のいんきょは、何とか、なかなおりの方法はないものかと、表通りまでやってきますと、表通りのいんきょも、そわそわ、そわそわと、門を出たり入ったりしております。
   二人は、ばったりと目があうと、つい、
  「さっきのは、おまえがわるいんだぞ!」
   もういっぽうも負けずに、
  「いいや、おまえがわるいんだ!」
  「では、どっちがわるいか、将棋できめよう」
  「おお、将棋で決着をつけるぞ!」
  と、いってあがりこみ、さっそく将棋盤をかこんで、さし始めました。
 将棋好きの人は、だいたいがこんなものです。
おしまい