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12月9日の小話
おやじをやいたせがれ
   おやじさんが四、五日、家をあけることになったので、るすばんのせがれにいいました。
  「いいか。きゃくがきたら、どこのどなたかをきいて、おちゃをさしあげ、でなおしてもらうんだぞ」
  「はいよ」
   せがれはひきうけましたが、もともと、ものおぼえがわるくて、たよりになりません。
  「おまえは、すぐにわすれてしまうから、紙にかいておいた。わすれたら、この紙をみるのだぞ。わかったな」
   おやじさんは、かきつけをわたして、でかけていきました。
   せがれは一日に何回も、紙をとりだしては、よみかえして、
  「どこのどなたかを、きく。ちゃをだす。でなおしてもらう。かんたん、かんたん」
  と、おもっていました。
   けれど、二日たっても、三日たっても、だれもきません。
  「こんな紙、いらないや」
  と、いろりで、やきすててしまいました。
   ところが、四日目に、
  「ごめんください。おとっつあんはおられますかな?」
   きゃくがやってきました。
   せがれはあわてて、ふところや、たもとをさぐりましたが、紙がないので、
  「それが、・・・なくなりました」
   しんみりと、こたえました。
  「なんと! いつ、なくなったのです?」
  「はい、きのう、やいてしまいました。」
  「そうですか。それはお気のどくなことでしたね」
 きゃくは、おくやみをいって、かえっていきました。
おしまい