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日本のふしぎ話 第31話
カッパのトゲぬき薬
茨城県の民話
むかしむかし、ある屋敷の裏の井戸(いど)に、毎日のようにおかっぱ頭の男の子がやってきました。
男の子は深い井戸の中をしばらくのぞきこんでは、スーッと、どこかへ消えていくのでした。
「なにをしているのだろう? 今度きたら、話しをしてみよう」
屋敷の人たちはそう思いましたが、男の子は気がついてみると、もう姿がないのです。
話をきいた屋敷の主人は、ある時、井戸のわきにひそんでまちかまえていました。
用心のために、刀(かたな)を手に身がまえています。
そこへ何も知らない男の子がやってくると、いつものように井戸の中をのぞきこみました。
そこへ、屋敷の主人が現われました。
「お前はどこの子だ? なんで毎日のようにここへきて、井戸の中をのぞきこんでいく」
主人の持っている刀を見た男の子は、ブルブルとふるえながら、その場ヘペタンとすわりこんでしまいました。
「どうやら、お前は人間の子ではなさそうだな」
主人は、刀をにぎりしめました。
「あ、あやしい者ではありません。村はずれの川にすむ、ただのカッパでございます」
「カッパだと? カッパがなんで、井戸をのぞくんだ?」
「はい。深い井戸の底にあるきれいな水を見ているだけです。この井戸の水は、とてもきれいですから。きれいな水を見ると、とても気持ちがいいんです」
と、カッパはいいました。
「お前は気持ちいいかもしれんが、家の者たちは気味わるがっておるんだ」
主人はおどすつもりで、刀をふりあげました。
「ご、ごかんべんを。命ばかりはお助けを」
「いや、ならぬ!」
主人が声をあらげると、カッパがいいました。
「命を助けてくださいましたら、カッパのトゲぬき薬のつくり方を教えます」
「トゲぬき薬? はじめて聞くが、それはどんな薬じゃ。つくり方をいってみろ」
するとカッパは、まじめな顔をして、
「ナシの葉とカキの葉と、野山にあるマユミ(→ニシキギ科の落葉小高木)の葉を、それぞれ土用の丑の日(どようのうしのひ)にとって、こまかくちぎってよくまぜて、それから・・・」
と、トゲぬき薬のつくり方を説明したあと、
「つくり方は、お屋敷のあとつぎの方にだけ教えて、あとは秘密にしてください」
と、つけくわえました。
屋敷の主人はカッパをゆるしてやると、夏の土用の丑の日をまって薬をつくってみました。
そしてためしてみると、カッパがいっていたようによくきいて、どんなトゲでもトゲのほうからぬけてくるのです。
「これは、たいしたものだ」
屋敷の主人がこのトゲぬきの薬を村の人たちに売ってみると大評判(だいひょうばん)で、つくってもつくってもすぐに売れてしまいました。
トゲぬきの薬なんてと思うでしょうが、仕事がら、お百姓(ひゃくしょう)はトゲがささることが多いのです。
その後、屋敷ではカッパの像(ぞう)をつくって、屋敷の裏の井戸のわきにまつったという事です。
おしまい
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