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3月24日の世界の昔話
  
  
  
  銅の国、銀の国、金の国
  ロシアの昔話 → ロシアの国情報
 むかしむかし、あるところに、王さまがいました。
   王さまは、おきさきのナスターシャと、三人の王子といっしょにくらしていました。
   あるとき、おきさきはおともをつれて、庭(にわ)をさんぽしていました。
   するときゅうに、つむじ風がまきおこって、あっというまに、おきさきをさらっていってしまいました。
   王さまは、夜もねむれないほどかなしみました。
   王子たちが大きくなると、王さまは王子たちをよんでいいました。
  「王子たちよ。おまえたちの中で、だれがお母さんをさがしにいってくれるかね」
  「ぼくたちがいきます」
  と、一番上のピョートル王子と、まんなかのワシーリー王子が旅にでかけました。
   それから一年たち、二年たち、とうとう三年めになりました。
   でも、王子たちは帰ってきません。
   ある日、すえの弟のイワン王子が、王さまにたのみました。
  「お父さん。どうかお母さんをさがしにいかせてください。兄さんたちをさがしにいかせてください」
   王さまは、たった一人のこったイワン王子をいかせたくありません。
   でも、イワン王子がどうしてもというので、しかたなくゆるしました。
   イワン王子は、一番いいウマにのって旅にでかけました。
   いく日も旅をつづけて、イワン王子はガラスの山のふもとにつきました。
   山のふもとには、二つのテントがあって、ピョートル王子とワシーリー王子がいました。
  「やあイワン、どこヘいくんだ?」
  「お母さんをさがしに。兄さんたちはどうしたんです?」
  「お母さんは、あの山のむこうにいるらしい。だが、ぼくたちにはとうていいけないところだ。もう、三年もここにいるが、どうしてものぼれないんだ」
  「そうですか。ぼくもやってみましょう」
   イワン王子は、ガラスの山をのぼりはじめました。
   とてもきゅうな山で、一歩はいあがったかと思うと、十歩ころげおちます。
   それでもイワン王子は、のぼりつづけました。
   手はきずだらけ、足は血だらけになりましたが、三日三晩かかって、やっと上までたどりつきました。
   イワン王子は、山の上から兄さんたちにさけびました。
  「ぼくは、お母さんをさがしにいきますから、そこでまっていてください。もし、三年と三か月たっても帰らなかったら、もう死んだものと思ってください」
   イワン王子は、旅をつづけました。
   ドンドン歩いていくと、銅(どう)のご殿がたっていました。
   門のところには、おそろしいヘビが何匹も、銅のクサリでつながれていて、口から火をはいていました。
   そばに井戸(いど)があって、銅のひしゃくが、銅のクサリでつるしてあります。
   ヘビたちは、水のほうに首をのばすのですが、クサリがみじかすぎてとどきません。
   イワン王子はひしゃくでつめたい水をくんで、ヘビに飲ませてやりました。
   すると、ヘビはみんなおとなしくなりました。
   イワン王子は門を通りぬけて、銅のご殿にはいりました。
   なかから、銅の国の王女がでてきました。
  「あなたは、どなた?」
  「ぼくは、イワン王子。母をさがしにきました。あなたはごぞんじありませんか?」
  「わたしは知りませんけれど、まんなかの姉が、知っているかもしれません」
   そういって銅の国の王女は、イワン王子に銅のマリをわたしてくれました。
  「このマリをころがしてごらんなさい。道案内をしてくれるでしょう。つむじ風をほろぼしたら、わたくしをたすけてくださいね」
  「いいですとも」
   イワン王子は、銅のマリをころがしました。
   マリはコロコロころげながら、王子を銀の国につれていってくれました。
   門のところには、おそろしいヘビが何匹も銀のクサリでつながれていて、口から火をはいています。
   そのそばに、銀のひしゃくをつるした井戸がありました。
   イワン王子は水をくんで、ヘビたちに飲ませてやりました。
   ヘビたちはおとなしくなって、イワン王子を通してくれました。
   銀のご殿の中にはいると、銀の国の王女が走りでてきました。
  「おそろしいつむじ風にさらわれてから、もう三年になります。ロシアの方にあえるなんて、ゆめみたいですわ。いったいあなたは、どなたですか?」
  「ぼくはイワン王子。つむじ風にさらわれた母をさがしにきたのです。どこにいるか、ごぞんじありませんか?」
  「いいえ、知りません。けれども、一番上の姉ならお教えできるでしょう。この銀のマリをさしあげますから、ころがしてついていらっしゃい。つむじ風を負かしたら、どうぞ、わたくしをすくってくださいね」
  「いいですとも」
   イワン王子は銀のマリをころがして、そのあとをついていきました。
   しばらく歩いていくと、金のご殿がキラキラと光っていました。
   門のところには、かぞえきれないほどたくさんのヘビが金のクサリにつながれて、シュウシュウと、口から火をはいています。
   そばの井戸には、金のひしゃくが金のクサリでつるしてありました。
   イワン王子は金のひしゃくに水をくんで、ヘビたちに飲ませました。
   ヘビはみんなおとなしくなって、イワン王子を通してくれました。
   ご殿の中にはいると、金の国の王女のエレーナ姫がでてきました。
   絵にもかけないほど、美しい王女です。
  「あなたは、どなたですか?」
  「ぼくはイワン王子。つむじ風にさらわれた母をさがしにきました。どこにいるか、ごぞんじありませんか?」
  「知っていますとも。ここからそれほど遠くはありません。金のマリをさしあげましょう。道案内をしてくれるでしょう。王子さま、つむじ風にお勝ちになったら、わたくしをすくってくださいね」
  「いいですとも」
   イワン王子は、金のマリをころがしました。
   そのあとについていくと、いままで見たことも聞いたこともないような、美しいご殿の前にきました。
   いちめんにちりばめた宝石が、もえるようにかがやいています。
   門には頭の六つあるヘビがうようよといて、口から火をふきあげています。
   イワン王子はヘビに水を飲ませて、ご殿の中にはいりました。
   いくつもヘやを通りぬけて、一番おくのへやへはいると、お母さんのナスターシャがかんむりをかぶって、高いところにすわっていました。
   お母さんは、はいってきたイワン王子を見ておどろきました。
  「イワン。どうしてここヘきたの?」
  「お母さん、あなたをとりもどしにきたのです」
  「ありがとう。つむじ風は、それはおそろしい力持ちだから、なかなかむずかしいことですよ。でもお母さんが、おまえの力をふやしてあげましょう」
   お母さんは、イワン王子をひみつの地下室へつれていきました。
   右と左に、水おけがありました。
  「イワンや、右がわの水をお飲み」
   イワン王子は、ひと口飲みました。
  「気持はどんなだい。力はふえたかい?」
  「はい、お母さん。このご殿なんか、片手でひっくりかえせますよ」
  「では、もうひと口お飲み」
   イワン王子は、またひと口飲みました。
  「こんどは、どのくらい力がふえたかい?」
  「世界じゅうだって、ひっくりかえせますよ!」
  「それで大丈夫。さあイワン。こんどは、この二つのおけをとりかえておきなさい。右のを左に。左のを右に」
   イワン王子は、右のおけと左のおけをいれかえました。
   イワン王子が飲んだのは、力をふやす水で、左がわにあったのが、力をなくす水でした。
   それが、いれかわったのです。
   地下室からもどると、お母さんはいそいでイワン王子に教えました。
  「もうじき、つむじ風が帰ってきます。そうしたらすぐに、つむじ風のこん棒をつかみなさい。どんなことがあっても、はなしてはいけませんよ」
   お母さんがそういっているうちに、外がまっくらになって、地ひびきがおこりました。
   つむじ風が帰ってきたのです。
   イワン王子はパッととびかかって、つむじ風の持っているこん棒をつかみました。
   つむじ風は、いきなり外ヘとびだして、空高くまいあがりました。
   ものすごいいきおいで、山の上、海の上と、とびまわりましたが、イワン王子は死にものぐるいで、こん棒につかまっていました。
   世界をひとめぐりすると、さすがのつむじ風もつかれてきて、地下室に水を飲みに帰りました。
   そして、なにも気がつかずに、右がわのおけの水をガブガブと飲みました。
   イワン王子は、左がわの水を飲みました。
   ひと口飲むごとに、つむじ風の力は、よわくなっていきました。
   ひと口飲むごとに、イワン王子の力は、つよくなっていきました。
   イワン王子は、かんたんに、つむじ風をたおすことができました。
   お母さんをすくいだしたイワン王子は、帰りの旅に出発しました。
   まず、金の国のエレーナ王女をたずねました。
   エレーナ王女は金のタマゴをころがして、金の国をそっくり金のタマゴの中にしまって、イワン王子におくりました。
   そして、二人は結婚のやくそくをしました。
   イワン王子はやくそくどおり、銀の国と銅の国の王女もたすけだしました。
   ガラスの山のいただきにつくと、イワン王子は長いひもをつかって、ふもとまでおりることにしました。
   さて、山のふもとでまっていたピョートル王子とワシーリー王子は、お母さんがひもをつたってぶじにおりてくるのを見ると、それはそれは喜びました。
   けれども、そのあとから三人の王女がおりてくるのを見ると、イワン王子がにくらしくなりました。
  「弟に大きな顔をされるなんて、しゃくじゃないか。お母さんと王女たちは、ぼくたちの手ですくいだしたことにしよう」
   こういって、兄さんたちは山の上からたれているひもをうばいとって、イワン王子をおりられなくしてしまいました。
   イワン王子は一人、山の上へとりのこされました。
   イワン王子は、なきました。
   なきながら、つむじ風のこん棒を右手でほうり投げて、左手でうけとめました。
   するととつぜん、片目の男と、足の悪い男がとびだしてきていいました。
  「イワン王子さま、ご用ですか? どんなことでも三つだけ、かなえてあげましょう」
  「では、たべるものがほしい」
   イワン王子がそういうと、たちまちたベきれないほどのごちそうがでてきました。
   おなかいっぱいにたべたイワン王子が、
  「つぎは、ゆっくり休みたい」
  と、いうと、たちまちフカフカのふとんがでてきました。
   イワン王子は、グッスリとねむりました。
   あくる朝、イワン王子はまた、こん棒をほうり投げて持ちかえました。
   すると、片目の男がとびだしてきました。
  「さいごのご用は、なんですか?」
  「ぼくの国へ帰りたい」
   そういったとたん、イワン王子はもう、自分の国の市場(いちば)のまんなかに立っていました。
   イワン王子は、町のクツ屋にやとわれました。
  「どのくらいの腕まえか、ためしにぬってごらん」
  と、主人はいって、イワン王子に革をわたしました。
   夜中になると、イワン王子は、そっと金のタマゴをころがして、金のご殿をだしました。
   そしてなかから、エレーナ姫の金のクツをとってくると、またご殿をタマゴのなかへしまいました。
   金のクツを見たクツ屋はビックリして、あわてて王さまのご殿へ持っていきました。
   そのころご殿では、三つの結婚式の用意をしていました。
   ピョートル王子とエレーナ姫、ワシーリー王子と銀の国の王女、銅の国の王女と将軍(しょうぐん)が、結婚式をあげることになったのです。
   クツ屋の持ってきた金のクツを見ると、エレーナ姫は、イワン王子がぶじでいることを知って喜びました。
   エレーナ姫は、王さまにいいました。
  「この金のクツをつくったクツ屋に、明日までに、わたくしにピッタリあった金の婚礼衣装(こんれいいしょう)をつくらせてください。それができなければ、ピョートル王子と結婚しません」
   王女の命令を聞いた靴屋は、ためいきをついて帰ってきました。
   けれどもイワン王子は、かんたんにいいました。
  「それぐらい、やさしいことです。まあ、さきにねていてください」
   夜中になると、イワン王子は金のタマゴから金のご殿をだして、金のご殿から金の婚礼衣装をとりだしました。
   あくる朝、クツ屋はキラキラと光りかがやく金のきものを見て喜びました。
   さっそくそれを持って、ご殿ヘかけつけました。
   エレーナ姫は、クツ屋にいいつけました。
  「あすの夜あけまでに、海の上に金の国をつくり、金のご殿をたてなさい。めずらしい木がしげり、小鳥たちがわたしをほめたたえる歌をうたうようにしなさい。それができなければ、おまえの命はありません」
   クツ屋は生きたここちもなく、帰ってきました。
   けれどもイワン王子は、わらっていいました。
  「それぐらい、やさしてことです。心配いりませんよ。まあ、さきにねてください」
   みんながねしずまると、イワン王子は海岸へいって、金のタマゴをころがしました。
   金の国がたちまちあらわれて、まんなかに金のご殿がたちました。
   ご殿から海岸に、金の橋がかけられました。
   まわりにはめずらしい木がしげり、小鳥が美しい声でさえずりはじめました。
   あくる朝、エレーナ姫は金のご殿を見ると、王さまにいいました。
  「馬車(ばしゃ)を用意してください。あのご殿で結婚式をあげましょう」
   さっそくみんなは馬車に乗って、金のご殿ヘいそぎました。
   金の橋のまんなかに、イワン王子が立っていました。
   エレーナ姫は、大声でさけびました。
  「みなさん、わたくしたちをすくってくださったのは、ピョートル王子ではありません。あの橋の上にいらっしゃる、イワン王子です!」
   そしてイワン王子と手をとりあって、金のご殿ヘはいりました。
   ほんとうのことを知った王さまは、ピョートル王子とワシーリー王子を、国から追い出そうとしました。
   けれども心のやさしいイワン王子は、兄さんたちをゆるしてやりました。
   そしてピョートル王子は銀の国の王女と、ワシーリー王子は銅の国の王女と結婚することになり、三つの結婚式を、世界じゅうの人たちがお祝いしたのです。
おしまい