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5月24日の世界の昔話
漁師とそのおかみさんの話
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むかしむかし、漁師(りょうし)とおかみさんが、きたなくて小さな家に住んでいました。
ある日、漁師がつりに出かけると、一匹のカレイがつれました。
「おおっ、これは立派なカレイだ。よし、さっそく町へ売りに行こう」
漁師はそういって、カレイをカゴに入れようとすると、そのカレイが漁師に話しかけてきたのです。
「漁師のおじさん。実はわたしは、魔法をかけられた王子なのです。お礼はしますから、わたしを海へ戻してください」
言葉を話すカレイに漁師はビックリしましたが、やがてカレイをカゴから出してやると言いました。
「それはかわいそうに。お礼なんていいから、はやく海にかえりなさい。それから、二度と人間につかまるんじゃないよ」
漁師はカレイを、そのまま海へはなしてやりました。
さて、漁師が家に帰ってそのことをおかみさんに話しますと、おかみさんはたいそう怒っていいました。
「バカだね! お礼をするといっているのだから、何か願いごとでもかなえてもらえばよかったんだよ。たとえば、こんなきたない家じゃなく、小さくてもあたらしい家がほしいとかね。・・・さあ、なにをグズグズしているんだ。はやくカレイのところにいって、願いをかなえてもらうんだよ!」
漁師はしかたなくもう一度海に行って、カレイに話しかけました。
するとカレイが海から出てきて、漁師にいいました。
「家に戻ってごらん。小さいけど、あたらしい家になっているよ」
漁師が家に帰ってみると、おかみさんが小さいけれどあたらしい家の前でよろこんでいました。
しばらくは小さいけれどあたらしい家に住んでいましたが、やがておかみさんがいいました。
「こんな小さな家じゃなく、石造りのご殿に住みたいねえ。・・・さあ、なにをグズグズしているんだ。はやくカレイに言っておいで」
漁師が海に行ってカレイにそのことを話すと、カレイは言いました。
「家に戻ってごらん。小さな家が、石造りのご殿になっているよ」
家に戻ってみると、小さな家はとても大きな石造りのご殿になっていました。
大きな石造りのご殿に、おかみさんはすっかり満足しましたが、やがてそれにもあきてしまい、また漁師にいいました。
「家ばかり大きくても、家来(けらい)がいないとつまらないね。やっぱり、家来のたくさんいる大貴族(だいきぞく)でないと。・・・さあ、なにをグズグズしているんだ。はやくカレイに言っておいで」
「でもおまえ、よくばりすぎじゃないのか。大きな家をもらっただけでいいじゃないか」
漁師がそういうと、おかみさんはこわい顔で漁師をにらみつけました。
「なに言っているんだい! 命を助けてやったんだから、そのくらい当然だよ。さあ、はやくいっておいで!」
漁師はしかたなく、もう一度カレイにお願いしました。
でもカレイは少しもいやな顔をせずに、ニッコリ笑っていいました。
「家に戻ってごらん。大貴族になっているよ」
家に帰ってみると、おかみさんは大勢の家来にかこまれた、大貴族になっていました。
大貴族になって、なに不自由ない生活でしたが、おかみさんはこれにもあきて、また漁師にいいました。
「いくら貴族といっても、しょせんは王さまのけらい。こんどは王さまになりたいね。・・・さあ、なにをグズグズしているんだ。はやくカレイに言っておいで」
「・・・・・・」
おかみさんのわがままに、漁師はあきれてものがいえませんでした。
しかし、おかみさんにせかされると、しかたなくもう一度カレイのところへいき、はずかしそうにおかみさんの願いをいいました。
「家に戻ってごらん。王さまになっているよ」
家に戻ってみると家はお城にかわっており、おかみさんのまわりには、大勢の貴族や大臣がいました。
とうとう王さまになったおかみさんですが、やがて王さまにもあきてしまいました。
「王さまよりも、法王(ほうおう)さまの方がえらいからね。こんどは法王さまになりたいね。・・・さあ、なにをグズグズしているんだ。はやくカレイに言っておいで」
漁師からその願いを聞いたカレイは、少しビックリしたようすですが、こんども願いをかなえてくれました。
「家に戻ってごらん。法王さまになっているよ」
家に帰ってみると、おかみさんは多くの王さまをしたがえた、法王さまになっていました。
とうとう、人間で一番えらい人になったのです。
でもやがて、おかみさんは法王さまにもあきてしまい、漁師にいいました。
「法王さまといっても、しょせんは神さまのしもべ。こんどは神さまになりたいね。・・・さあ、なにをグズグズしているんだ。はやくカレイに言っておいで」
その言葉に漁師は、泣いておかみさんにたのみました。
「神さまだなんて、そんなおそれおおい。おねがいだから、やめておくれ」
でも、おかみさんは考えをかえようとしません。
漁師はしかたなく、もう一度カレイのところへいきました。
するとカレイは、あきれた顔でいいました。
「お帰りなさい。おかみさんはむかしのあばら家にいますよ」
漁師が家に帰ってみると、お城も家来たちもみんな消えてしまって、前のきたなくて小さな家だけがのこっていました。
それから漁師とおかみさんは、いままでどおりのまずしい生活をおくったということです。
おしまい