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世界のとんち話 第10話
銀の鼻
イタリアの昔話 → イタリアの国情報
むかしむかし、イタリアのある町に、せんたく屋のおかみさんがいました。
おかみさんには、三人の娘がいます。
おかみさんと娘の四人は、毎日せっせとせんたく物を洗らってはたらいていましたが、くらしは少しもらくになりません。
「いっそのこと、悪魔(あくま)のところでもいいから、奉公(ほうこう→住み込みではたらくこと)にいこうかしら」
ある日、一番上の娘がいいました。
「まあ、なんてことをいうんだい! そんなことをしたらどんなふこうな目にあうか、わからないのかい」
と、お母さんは娘をしかりました。
それからしばらくしたある日、黒い服をきて、銀の鼻をした上品な紳士がやってきて、ていねいな言葉つきでいいました。
「おかみさん。おたくには娘さんが三人もいますね。そのうちの一人を、わたしの家に奉公におだしになりませんか?」
お母さんは、その人が銀の鼻をしているのが気にいりませんでした。
そこで、姉娘にいいました。
「ねえ、世の中には銀の鼻をしている人なんていないよ。きっと悪魔にちがいない。奉公にいったら、きっと後悔することになるよ」
でも姉娘は、こんないい話はないと、銀の鼻の紳士の家に奉公にいくことにしました。
こうして二人は、いくつもの山をこえ、森をとおりぬけて、長い道のりを歩いていきました。
すると、はるか遠くのほうに、火事のようにボーッと明るくなっているところが見えました。
「あれは、なんですか?」
姉娘は、すこしこわくなってききました。
「わたしの家だよ。さあ、いこう」
と、銀の鼻の人は答えました。
「・・・・・・」
姉娘は、しぶしぶとついていきました。
二人は、銀の鼻の大きな宮殿(きゅうでん)につきました。
銀の鼻は、宮殿のへやからへやを案内して、そしてさいごのへやの前へくると、姉娘にカギをわたしていいました。
「ほかのへやはいつでも入っていいが、このへやだけは、どんなことがあっても開けてはいけないよ」
その晩、娘がへやでねむっていると、銀の鼻はそっと入ってきて、娘のかみにバラの花をさして出て行きました。
明くる日、銀の鼻は用事ででかけていきました。
娘は、あのへやを開けてみたくてたまりません。
そしてとうとう、ひみつのへやのとびらに、かぎをさしこんでしまいました。
とびらを開けると、へやの中からまっ赤な炎がふき出して、中ではやけただれた人がおおぜい苦しんでいました。
銀の鼻は、やっぱり悪魔だったのです。
姉娘は、アッとさけんでにげだしましたが、そのときに、髪のバラの花がこげてしまいました。
銀の鼻はかえってきて、バラの花がこげているのに気がつくと、
「よくも、いいつけにそむいたな!」
と、さけんで、娘を地獄のへやになげこんでしまいました。
あくる日、銀の鼻はまた、せんたく屋のおかみさんのところへいきました。
「娘さんは、たいへんしあわせにはたらいています。でも、まだ人手がたりません。二番目の娘さんもよこしてください」
それで二番目の娘も、奉公することになりました。
宮殿につくと、銀の鼻はへやからへやを案内し、さいごのへやの前でカギをわたしていいました。
「このへやは、どんなことがあってもあけてはいけないよ」
その晩、二番目の娘がねむっていると、銀の鼻はそっと入ってきて、髪の毛にカーネーションの花をさしました。
あくる日、銀の鼻は用事ででかけました。
娘は、あのへやをあけてみたくてたまりません。
すぐに、ひみつのへやの前へいって、カギでとびらをあけました。
すると、まっかな炎と黒い煙がふきだして、火のへやの中にねえさんの姿を見つけました。
「妹よ。たすけて、たすけて」
ねえさんのさけび声をきくと、ビックリした妹は、あわててとびらをしめてにげだしました。
やがてかえってきた銀の鼻は、娘のカーネーションが、こげてしおれているのに気がつきました。
「よくも、あのへやをあけたな!」
悪魔は娘をつかまえると、地獄のへやの中へなげこんでしまいました。
あくる日、銀の鼻はまた、せんたく屋の店にいって、一番りこうな末娘のルチーアをつれてきました、
銀の鼻は宮殿のへやを案内してから、さいごのへやの前で、ねえさんたちにいったこととおなじことをいって、カギをわたしました。
そして、ルチーアがねむっているとき、こんどは髪にジャスミンの花をさしました。
あくる朝ルチーアは、鏡に顔をうつして、髪のジャスミンに気づきました。
「まあ、きれいな花。でも、これではじきにしぼんじゃうから、コップにさしておきましょう」
そういって、花をコップにさしました。
銀の鼻は、用事ででかけました。
やはりルチーアも、あのへやをあけてみたくてたまりません。
すぐにとんでいって、ひみつのへやのとびらをあけました。
すると、
「ルチーア。たすけて、たすけて」
火のへやの中から、かなしい姉たちの声がきこえました。
ルチーアは自分のへやへにげかえると、ジャスミンの花を髪にさし、どうしてねえさんたちをたすけようかとかんがえました。
銀の鼻がかえってみると、ジャスミンの花はそのままです。
「おまえは、いいつけをよく守るよい子だ。ずっといてくれるね」
「はい。でも、お母さんがどうしているか気がかりです」
「じゃあ、わたしがいって見てくるよ」
ルチーアは銀の鼻がでかけると、いちばん上のねえさんを地獄のへやからたすけだして、袋の中にいれました。
やがて、銀の鼻がかえりました。
「ご主人さま。これはせんたく物です。うちへとどけてください。重いですが、道のとちゅうであけて見てはいけません。わたしはここで見はっていますよ」
「いいとも。あけやしないよ」
と、いって、銀の鼻はでかけました。
銀の鼻は袋があまり重いので、道のとちゅうで肩からおろして、中を見ようとしました。
すると、
「見てるわよ。見てるわよ」
と、いう声がきこえました。
ルチーアはねえさんに、もし袋があけられそうになったら、そういうようにいっておいたのです。
銀の鼻はしかたなく、重い袋をかついでお母さんのところへとどけました。
こうしてまもなく、二番目のねえさんもうちへかえることができました。
そしてこんどは、ルチーアがにげるばんです。
ルチーアは、自分そっくりの人形をつくりました。
「ご主人さま。わたしはからだのぐあいが悪くて、あしたはねているかもしれませんが、ベッドのわきのせんたく物をまたとどけてください」
そういって、あくる日ルチーアは人形をベッドにねかせ、自分は袋の中にはいりました。
銀の鼻は袋をかついででかけましたが、重くてたまりません。
そこで袋をおろして、中を見ようとしました。
すると中から、
「見てるわよ」
と、いう声がきこえてきました。
「あの子にはかなわん。まるで、そばで見ているようだ」
銀の鼻はしかたなく、そのままかついでお母さんのところへとどけました。
「では、せんたく物はここへおくよ。わたしはルチーアが病気なので、いそいでかえらなくてはならんから」
と、銀の鼻はいそいでかえっていきました。
親子四人は、手をとりあって喜びました。
ルチーアは悪魔の家からお金をたくさん持ってきていたので、くらしがらくになったばかりか、戸口には魔よけの十字架を立てたので、悪魔はもうよりつきませんでした。
おしまい
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