10月11日の百物語
大工と大入道
むかしむかし、腕の良い大工(だいく)が一日の仕事を終えて、道具箱を肩にかついで夕暮れの山道を帰って行きました。
「すっかり、遅くなってしまった」
辺りはもう、だいぶ暗くなっています。
大工が急いで歩いていると、急に生暖かい風が吹いてきました。
そして大工を通せんぼする様に、赤い服を着た大入道(おおにゅうどう)が、ヌーーーッと現れたのです。
「で、でたあーー!」
大工は逃げ出そうと思いましたが、すぐに足を止めて大入道の方を向きました。
「待て待て、人に話す時、どのくらい大きな大入道だったか言える様に、寸法をはかっておかなければ」
さすがは大工、大きな物を見ると寸法をはかりたくなるようで、大工はさっそく道具箱から寸法をはかるさしがねを取り出しました。
そしてさしがねを持って近づく大工に、大入道の方が驚いて後ずさりをしました。
「こら、動くな大入道。すぐにはかってやるから、じっとしていろ」
すると大入道は、
「おれは、はかられたくねえ!」
と、言って、煙の様に消えてしまいました。
おしまい