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      福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
       
        
       
まさかの話 
      
      
       むかしむかし、吉四六(きっちょむ)さんと言う、とてもゆかいな人がいました。 
 吉四六さんの村には、話しを聞くのが何よりも好きな、お金持ちのおじいさんがいました。 
 人から色々と話しを聞くのですが、話しが面白くなると、 
「まさか、そんな事はありゃんすめえ」 
と、必ず言うのです。 
 だから、この頃は誰も相手にしてくれません。 
 
「退屈だな。誰か話をしてくれんかな」 
 おじいさんがそう思っていると、ちょうど吉四六さんが通りかかったので、おじいさんが話しをしてくれとせがみました。 
「まあ、しても良いですが、話しの途中で、『まさか、そんな事はありゃんすめえ』と、言わない約束をしてくれますか?」 
 吉四六さんが聞くと、 
「いいとも。もし言ったら、米を一俵(いっぴょう)やろう」 
と、おじいさんは約束しました。 
「それでは、話しましょう」 
 縁側に腰をかけると、吉四六さんが話し始めました。 
 
「むかし、ある国の殿さまが立派なカゴに乗って、家来を連れて旅をしていた。 
 殿さまのカゴが山道にさしかかると、どこからかトンビが一羽飛んで来て。 
『ピーヒョロロロロ』 
と、カゴの周りをグルグル舞い始めたのです」 
「ふむ、なるほど」 
「『何と良い鳴き声じゃ。どこで鳴いておるのじゃ』 
と、殿さまがカゴの戸を開けて体を乗り出すと、トンビが鳴きながら殿さまの羽織のそでに、 
『ポトン』 
と、フンを落とした」 
「ふーむ、なるほど」 
 おじいさんは米を一俵も取られては大変と、いつもの口ぐせを言わない様に気をつけています。 
「殿さまは家来に言いつけて、 
『はよう、羽織の代わりを持ってまいれ』 
と、命じて、持って来た羽織に着替えた」 
「なるほど、なるほど」 
「羽織を着替えてしばらく行くと、また先程のトンビが、 
『ピーヒョロロロ』 
と、鳴いたので、殿さまがまたカゴの戸を開けて体を乗り出すと、今度はトンビのフンが殿さまの刀にポトン」 
「うーむ。まさか・・・」 
 おじいさんは言いかけて、危なく思い止まりました。 
「殿さまは家来に言いつけて、刀の代わりのを持って来させた。 
 しばらく行くと、またまたさっきのトンビが、 
『ピーヒョロロロ』 
と、鳴いたんだ。 
 殿さまがカゴの戸を開けて、またまた体を乗り出すと、今度はトンビのフンが殿さまの頭にポトン。 
 すると殿さまは、 
『はよう、首の代わりを持ってまいれ』 
と、家来に命じて、自分の刀で首をチョンと切ってな。 
 家来の持って来た代わりの首とすげ代えて、そのまま何事もなく旅を続けたそうじゃ」 
 おじいさんは、思わず、 
「まさか、そんな事はありゃんすめえ!」 
と、大声で言ってしまいました。 
「へい。米を一俵ありがとうございます」 
 こうして吉四六さんは、おじいさんから約束の米を貰うと、さっさと帰って行きました。 
      おしまい 
         
         
        
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