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      福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
       
        
       
ひげの長者 
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて 
      
      
       むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。 
 吉四六さんの村には長兵衛さんという、仙人の様に長いあごひげを生やしたお金持ちの老人がいました。 
 そしてこの老人は、 
「おれのひげは、日本一だ!」 
と、いつも威張っているのです。 
 そして自慢のひげを褒める人がいれば、誰でも家に連れて来てごちそうをするのでした。 
 
 ある夜の事、吉四六さんが長兵衛さんの家に遊びに行ってみると、長兵衛さんは見知らぬ二人の旅人をもてなして、飲めや歌えの大騒ぎでした。 
「こんばんは、長兵衛さん。今日はご機嫌ですね」 
 吉四六さんが言うと、長兵衛さんはにこにこ顔で、 
「吉四六さん、喜んでくれ。 
 実はこの客人は、伊勢の国(いせのくに→三重県)のひげの長者のお使いだそうだ。 
 ひげの長者は、その名の通り大変長いひげを持っておられたが、一年前に亡くなられる時、遺言として、 
『これから日本一の長ひげの男を探し出して、その男に黄金千両をわたしてくれ』 
と、言ったそうじゃ。 
 それで、このお客さんたちは国々を探し歩いた末、やっとわしの日本一のひげを見つけて下されたのじゃ。 
 だからわしは、明日から客人と一緒に伊勢の国へ行って、黄金千両をもらってくるんだ」 
と、答えました。 
「へえ、まあ、それはおめでたい事で」 
 吉四六さんは適当に相づちを打って、自分もごちそうになりましたが、旅人が酔い潰れて寝てしまうと、長兵衛さんを別室に呼んで尋ねました。 
「長兵衛さん。お前さんは寝る時、ひげはふとんの外に出して眠りますか? それとも入れて眠りますか?」 
「おや? 吉四六さん、どうしてそんな事を聞くんだね?」 
「いや、実はさっき、かわや(→トイレの事)に行った時、客人が二人で話しているのを何気なく耳にしたが、これもやはり長者の遺言で、黄金を渡す前にひげの出し入れを聞いて、はっきり答えが出なければ黄金を渡さないらしいんだ。遺言だから長兵衛さんに言って聞かせるわけにもいかず、うまく答えてくれればいいと話し合っていたんだよ」 
「何だ、そんな事だったら、わけもなく答えられるよ。なにせ、自分のひげじゃないか」 
 長兵衛さんはそう言いましたが、いよいよふとんに入ってみると、今まで気にもしなかった事なので、いくら考えてもどっちかわかりません。 
 試しにひげをふとんの中に入れて眠ろうとすると、いつも出していた様な気がしますし、かといって出してみると、なんだか寒くて眠れません。 
「こりゃ、困ったぞ」 
 長兵衛さんがひげを入れたり出したりしているうちに、真夜中になってしまいました。 
 するとどこからともなく、ミシリ、ミシリという足音が聞こえてきます。 
「はて? 今頃、誰だろう?」 
 顔をあげてみると、しょうじに二つの怪しい影がうつりました。 
 後を付けてみると、その影は土蔵の前に忍び寄って、扉の錠を壊し始めました。 
 驚いた長兵衛さんは、大声で、 
「泥棒! 泥棒!」 
と、叫びました。 
 するとその声に家の人たちが目を覚まして騒ぎ出したので、泥棒はそのままどこかへ逃げてしまいました。 
 
 さて、夜が明けると、吉四六さんがにこにこしながらやって来ました。 
 そして、尋ねました。 
「長兵衛さん、ひげの事はわかったかね?」 
「ああ、吉四六さん。それどころか、あの客人は泥棒だったよ」 
「で、何か盗まれたかね?」 
「いや、昨夜はひげの出し入れが気になって、昨夜は眠れなかったんだ。 
 その為、早くに泥棒に気がついたから、何も盗まれなかったよ。 
 だが吉四六さん、あの泥棒は馬鹿な奴だな。 
 ひげの出し入れの事を言わなければ、わしはぐっすりと眠っていただろうに」 
 それを聞いた吉四六さんは、大笑いしました。 
「わっはははっ。 
 長兵衛さん、そのひげの出し入れは、実はおれの作り話なんだ。 
 あの二人があやしいと思ったので、お前さんが眠らないように、あんな事を言ったんだよ」 
「おや、そうだったのか。でも、どうしてあの客人が泥棒だという事に気がついたんだ?」 
「それはだな。お前さんのひげが、日本一でないからだ。お前さんよりも長いひげを持つ者は、町へ行けばいくらでもいるさ。何でも自分が一番だとうぬぼれると、今度の様に人から騙されるんだ」 
「・・・なるほど」 
 この事にこりた長兵衛さんは、もうひげの自慢をしなくなったそうです。 
      おしまい 
         
         
        
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