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ネズミ経 
長野県の民話 → 長野県の情報 
      
       
      
      
       むかしむかし、ある山の中に、一人のおばあさんが住んでいました。 
        
        おばあさんは大変仏さまを大事にしていましたので、毎日毎晩、仏だんの前で手を合わせましたが、 
        
       お経の言葉を知りません。 
           
         ある時、一人の坊さんがやって来て言いました。 
        
       「道に迷って、困っています。どうか一晩、泊めてください」 
        「ああ、いいですとも」 
         おばあさんは坊さんを親切にもてなしましたが、ふと気がついていいました。 
        「お願いです。どうか、お経の言葉を教えてください」 
        
        ところがこの坊さんはなまけ者で、お経の言葉を知りませんでした。 
         でも坊さんのくせにお経を知らないともいえないので、仕方なしに仏だんの前に座ると、なんと言おうかと考えました。 
         すると目の前の壁の穴から、ネズミが一匹顔を出しました。 
         そこで坊さんは、 
        
       「♪ネズミが一匹、顔出したあー」 
        と、お経の節をつけて言いました。 
         すると今度は、二匹のネズミが穴から顔を出したので、 
        
       「♪今度は二匹、顔出したあー」 
        と、坊さんは言いました。 
         さて次に何と言おうかなと考えていると、三匹のネズミが穴から顔を出して、こちらを見ています。 
         そこで坊さんは、 
        
       「♪次には三匹、顔出したあー」 
         大きな声で言うと、三匹のネズミはビックリして穴から逃げ出しました。 
         そこで、 
        
       「♪それからみーんな、逃げ出したあー」 
         坊さんはそう言って、チーンと鐘を鳴らして言いました。 
        「お経は、これでおしまいです。 
         少し変わったお経ですが、大変ありがたいお経です。 
         毎日、今のように言えばいいのです」 
         おばあさんはすっかり喜んで、それから毎朝毎晩、 
        
       「♪ネズミが一匹、顔出したあー 
        ♪今度は二匹、顔出したあー 
        ♪次には三匹、顔出したあー 
        ♪それからみーんな、逃げ出したあー」 
        と、お経をあげました。 
   
         ある晩、三人の泥棒が、こっそりおばあさんの家に忍び込みました。 
         ちょうど、おばあさんが仏だんの前でお経をあげている時でした。 
        「あのばあさん、何をしているのかな?」 
         一人の泥棒が、おばあさんの後ろのしょうじからそっと顔を出すと、 
        
       「♪ネズミが一匹、顔出したあー」 
         おばあさんが、大声で言いました。 
        「あれっ、おれの事を言ってるのかな?」 
        「何をブツブツ、言ってるんだい?」 
         もう一人の泥棒が、顔を出すと、 
        
       「♪今度は二匹、顔出したあー」 
         おばあさんが、また大きな声で言いました。 
        「やっぱり、おれたちの事を言ってるみたいだぞ」 
        「どれどれ」 
         三人目の泥棒が顔を出すと、 
        
       「♪次には三匹、顔出したあー」 
         また、おばあさんの声がしました。 
        「うへぇ、あのおばあさん、後ろに目がついているんだ。こわい、こわい」 
        
               三人の泥棒はビックリして、あわてて逃げ出しました。 
         そんな事は知らないおばあさんは、また、 
        「♪それからみーんな、逃げ出したあー」 
        と、大声で言うと、 
        
       チーンと鐘を鳴らして仏だんに手を合わせました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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