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          福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
          
         
テングに気に入られた男 
静岡県の民話→ 静岡県情報 
      
      
       むかしむかし、静岡の大きな川の渡し場のそばに、一軒の小さな茶店がありました。 
 その茶店に山伏姿(やまぶしすがた)の背の高い男がやってきて、注文したおそばをうまそうに食べると、茶店の主人の三五郎(さんごろう)に言いました。 
「こんなにうまいそばを食べたのは、初めてだ」 
「それは、ありがとうございます」 
「・・・して、あんたはまだ一人者だね。なぜ、嫁さんをもらわんのじゃ? これからわしは江戸へ行くが、江戸に何人も良い娘を知っておる。帰りに良い娘を連れてきてやるから、夫婦になりなさい」 
 山伏姿の男はそう言うと、渡し舟で川を渡っていきました。 
「・・・嫁さんか」 
 三五郎はなんとなく、うれしくなりました。 
 
 それからしばらくたったある日、あの山伏姿の男が本当に、若い娘を連れてやってきたのです。 
 娘は恥ずかしいのか下をむいたままで、まったく顔をあげません。 
「主人よ、これはほんのみやげじゃ」 
 男は風呂敷につつんだ重い物を三五郎の前に差し出すと、二人にむかって言いました。 
「よいか。夫婦というものは、どんな時でも仲むつまじくなければならん。決して、けんかなんぞするなよ。それではわしは、ちょっとそこまで行ってくる」 
 山伏姿の男は、そのまま茶店を出ていきました。 
 娘と二人になった三五郎は、娘に熱いお茶を出しました。 
「ああ、とにかく、お茶でもどうぞ。江戸からでは、大変じゃったろう。疲れておるなら、二階でひと休みするとよい」 
 すると娘は、はじめて顔をあげました。 
 まだ十七、八の、かわいい娘です。 
 娘は熱いお茶を飲むと、 
「ヒクッ!」 
と、
        大きなしゃっくりをして、急にそわそわしはじめました。 
「あれ? ここは? ここは、どこですか? あなたは、どなたですか?」 
「えっ?」 
 三五郎はおどろきましたが、とにかく娘の気を落ちつかせると、これまでの事を話しました。 
 すると娘は、 
「あっ! きっと、あの南天(なんてん)の実のような赤い薬だわ」 
と、こんな話をはじめたのです。 
「実はわたし、江戸のある橋のたもとで急に気分が悪くなったのです。 
 すると、山伏姿の背の高い男が現れて、 
『これは、元気になる薬じゃ。すぐに飲みなさい』 
と、言って、わたしに赤い薬を一粒くれました。 
 それを飲むと、とても良い気分になって。 
 それからは、何も覚えていません。 
 たったいま熱いお茶を飲んだら、しゃっくりが出て正気にもどったのです」 
 娘は三五郎に頭を下げると、すぐに江戸へもどっていきました。 
 
 一人残された三五郎は、山伏姿の男がみやげだと置いていった風呂敷包みを開けてみました。 
 すると中には小判で、六十両ものお金が入っていたのです。 
 三五郎は気味が悪いので、すぐに役人に届け出ました。 
 すると役人は、にっこりわらって言いました。 
「ああ、またですか」 
「また?」 
「はい、お前さんで、何人目だろうか。 
 このような事はもう何年も前から続いていて、山伏姿の男はテングだと言われています。 
 テングは気に入った相手に、親切にするという話しです。 
 嫁さんは手に入らずおしい事をしましたが、そのお金はお前さんの物です。 
 ありがたく、もらっておきなさい」 
 
 テングはそれっきり、三五郎の前には現れなかったそうです。 
      おしまい 
        
         
        
       
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