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      福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの日本昔話 
       
        
       
すもう取りと、貧乏神 
富山県の民話→ 富山県情報 
      
       
      
      
       むかしむかし、つるぎ山という、すもう取りがいました。 
 はじめはガリガリの小さな体でしたが、いっしょうけんめいけいこをして、ズンズン大きくなりました。 
「はやく大関(おおぜき→むかしは大関が一番強い位でした)になって、お母さんに喜んでもらうんだ」 
 つるぎ山は大関になるために、毎日きびしいけいこを続けました。 
 ところがある日から、つるぎ山は急に弱くなってしまいました。 
 自分よりも体の小さい者にも、コロコロと負かされてしまうのです。 
「さっきのは、ちょっとゆだんしたからだ。もうゆだんしないぞ。さあこい!」 
 でもやっぱり、いくらがんばってもコロコロと負けてしまいます。 
「もうだめだ。残念だが、すもうをやめよう」 
 そして、お世話になった親方(おやかた)に言いました。。 
「わたしは、もう限界です。田舎へ帰ってお母さんのそばで働くので、ひまをください」 
 しかし親方は、つるぎ山をはげましました。 
「調子の悪い時は、誰にでもある。もう少し、ガマンするのだ。負けてもけいこを続ければ、必ず強くなる」 
 けれどつるぎ山は親方の家を逃げ出して、お母さんのいる田舎へ帰ったのです。 
「お母さん、すもう取りになりましたが、どうしても大関になれそうもありません。これからは田舎で働くので、お母さんのそばへおいてください」 
 手をついてあやまるつるぎ山に、お母さんはきびしく言いました。 
「いけません! そんな意気地なしは、お母さんの子ではありません。もう一度、親方さんのところへ帰って、しっかりけいこをしてごらんなさい。大関になるまでは、二度と帰ってはいけません!」 
「でも」 
「はやく、親方さんのところに帰りなさい!」 
「・・・はい」 
 そこまで言われれば、仕方がありません。 
 つるぎ山は親方のところへ、帰ることにしました。 
 その帰る途中に、けわしい山があります。 
 つるぎ山が山を登っていると、 
「おーい、おーい」 
と、誰かが後ろから呼びました。 
 それは頭の毛がボウボウとのびていて、体はやせて骨と皮ばかりの老人です。 
「わたしに、何か用かね?」 
「さようです。ヘヘヘへ。わたしをおいてきぼりにしないでくださいよ。今朝はうっかりして遅れましたが、わたしたちは、いつも一緒でしょう。さあ、行きましょう」 
「・・・? いつも一緒だって? お前は一体、誰だ?」 
「わたしですか。ヘヘヘへ。わたしは、貧乏神(びんぼうがみ)です。いつもあなたに、ついているのですよ」 
 つるぎ山はビックリして、貧乏神の顔をにらみつけました。 
「わかったぞ! お前がついているから、わたしはすもうに負けるのだな。そうだろう!」 
「ヘヘヘへ。その通りですが、ちょっと違います。 
 わたしがいるから弱くなったのではなく、あなたが弱いから、わたしがやって来たのです」 
「わたしが弱いだと! なにを言う、わたしはすもう取りのつるぎ山だぞ!」 
「ヘヘヘへ。あなたのどこが強いのですか? ちょっと負けが続いたからといって、親方のところから逃げ出して、お母さんに泣きつくお人が」 
「なっ、なんだと!!」 
 つるぎ山は大声で怒鳴りましたが、しかし貧乏神の言う事も間違いではありません。 
(確かに、貧乏神の言う通りだ。わたしが意気地なしだから、貧乏神がやってきたのだ。よし、元気を出そう。貧乏神なんかに、負けてたまるか!) 
 つるぎ山ははだかになってまわしをしめると、貧乏神に言いました。 
「貧乏神! ひとつ、すもうをとろうじゃないか」 
「ヘヘへへ。すもうですか? まあ、とってもいいですが、でも、わたしの方が勝ちますよ」 
「そんな事はない。勝つのは、このつるぎ山だ!」 
「いいえ、意気地なしのあなたでは、わたしに勝てませんよ」 
「勝てないかどうか、ためしてみるがいい!」 
 つるぎ山は、ドシン、ドシンと、しこをふんでから、貧乏神に組み付きました。 
 そして全身に力を込めて、 
「えいっ!」 
と、貧乏神を投げ飛ばしたのです。 
「おみごと! あなたはきっと、大関になれますよ」 
 貧乏神はそう言って、消えてしまいました。 
 そのとたん、つるぎ山の体に力がわいてきました。 
 力があふれ出て、自分でも強くなったのがわかります。 
 つるぎ山は元気いっぱいで、親方の家に帰りました。 
 
 そしてつるぎ山はけいこをつんで、それから三年目、ついに大関になる事が出来たのです。 
      おしまい 
         
         
        
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