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      福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの日本昔話 
       
        
       
ネコのおけさ節 
新潟県の民話 → 新潟県情報 
      
      
       むかしむかし、佐渡島(さどがしま)の海辺に、ネコ好きのおばあさんがいました。 
 若い頃から一人暮らしですが、いつも十数匹のネコを飼っています。 
 ところが年を取るにつれて貯金もなくなり、その日の食べる物にさえも不自由するようになりました。 
 その為に、たくさん飼っていたネコたちも次々と逃げ出して、ついには古くからいた三毛ネコ一匹しか残りませんでした。 
 おばあさんはこの三毛ネコを今まで以上に可愛がり、自分が食べない日はあっても、ネコの食べ物だけは毎日用意しました。 
  しかし、いつしかその食べ物にも困るようになったので、ある日おばあさんはネコに言いました。 
「ごらんの通りの貧乏暮らしで、お前にエサをやれんようになってしまった。 
 だからといって家出をしたり、よその家に行って食べ物を欲しがったりしないでおくれ。 
 お前は、わたしのたった一つの生きがいなのだから」 
 ところが次の日、そのネコも姿を消してしまいました。 
(ああ、何て事だろう。あれほど可愛がっていたネコに見捨てられるなんて。貧乏すると人ばかりか、ネコにまで嫌われてしまうのか) 
 おばあさんは、思わず涙をこぼしました。 
 誰もいない家の中でボンヤリと座っていたら、突然、美しい娘が訪ねて来て言いました。 
「おばあさん、わたしはおばあさんに可愛がってもらった三毛ネコです。今まで、何のお役にも立ちませんでしたが、どうぞ恩返しをさせて下さい」 
と、言うではありませんか。 
 おばあさんはビックリして娘を見ましたが、どこから見ても人間の姿で、とてもネコが化けているとは思えません。 
「お前、そんな姿になって、何をしようというのかい? わたしの事なら心配しなくても大丈夫だからね」 
「いいえ、このままではおばあさんが可愛そうです。何でも、江戸(えど)の方から芸者(げいしゃ)になる娘を探しに来ているという噂を聞きました。どうか、江戸の男にわたしを見せて下さい。きっと、たくさんのお金で買ってくれるでしょう」 
 娘に化けたネコが、あまりにも熱心に言うので、 
「そこまで、わたしの事を心配してくれるとは・・・」 
と、おばあさんはネコの申し出を受ける事にしました。 
 やがて、おばあさんの村へ江戸の男がやって来て、娘を見るなり、 
「なんてきれいな娘だ。こりゃ間違いなく、江戸でも指折りの芸者になれるぞ」 
と、言って、おばあさんにたくさんの金を渡して、娘を江戸へ連れて行きました。 
 
 それから何ヶ月かあと、江戸の深川(ふかがわ)の料理屋に、おけさと名乗る芸者が現れました。 
 そのあでやかな美しさは、まるで名人が描いた絵から抜け出たようです。 
 しかも、おけさの歌う歌は江戸では珍しいもので、人々からは『おけさ節』と呼ばれて、たちまち町中の評判(ひょうばん)になりました。 
 そんなおけさを一目見たいという客が増えて、おけさのいる料理屋は毎晩大変な賑わいとなりました。 
 
 ある晩の事、その料理屋へ船乗りたちを引き連れた船頭(せんどう)がやって来て、 
「金ならいくらでも出すから、おけさを呼んでくれ」 
と、言うのです。 
「お呼びいただいて、ありがとうございます」 
 おけさが部屋に行くと、部屋はたちまち花が咲いた様に華やかになり、とても賑やかな酒盛りが始まりました。 
 やがて三味線(しゃみせん)が鳴り、おけさの歌う「おけさ節」が流れます。 
「よよっ、いいぞ、いいぞ」 
 おけさ節に合わせて船乗りたちが踊り、踊っているうちに酒の酔いが回って、一人、また一人と酔い潰れ、酒盛りが終わった時には、みんな大の字になっていました。 
 飲み過ぎた船頭は、はうようにして隣の部屋へ行き、布団の中へ潜り込みました。 
 
 さて、夜中にふと目を覚ました船頭の耳に、酒盛りをした部屋から、何かを噛み砕く様な音が聞こえてきました。 
(はて、何の音だろう?) 
 不思議に思った船頭が、しょうじのすきまからそっと中をのぞいてみると、何と芸者姿の大きなネコがキバをむき、食べ残した魚の頭をかじっているではありませんか。 
 その着物はどう見ても、おけさの着ていたものです。 
 ビックリした船頭は、あわてて床の中へ潜り込みました。 
 すると、それに気づいたおけさが船頭のそばへ来て、 
「今見た事は、誰にも言わないで下さいね。もし人にしゃべったら、ただではおきませんからね」 
と、言ったのです。 
「わ、わかった。誰にも言わない」 
 船頭は、ブルブルと震えながら答えました。 
 
 次の朝、船頭と船乗りたちは料理屋を出て浜に向かいました。 
 海は静かで空には雲一つなく、船旅には絶好(ぜっこう)の日よりです。 
「それっ!」 
 船頭のかけ声とともに、船はゆっくりと動き始めました。 
 やがて船乗りたちが、一か所に集まってゆうべの話を始めます。 
「いやあ、ゆうべは楽しかったな。それにしても、芸者のおけさのきれいな事」 
「そうよ。さすがは江戸だ。おら、あんなにきれいで歌のうまい芸者は見た事がない」 
 そこへ船頭もやって来て、つい口を滑らせたのです。 
「お前たち、あの芸者の正体を知っているのか?」 
「正体だって?」 
「実はな、あの芸者はネコが化けたものだ」 
と、ゆうべの出来事を、詳しく話して聞かせました。 
「まさかそんな。とても信じられない」 
「まだ、酒に酔っているのと違うか?」 
 船乗りたちが首をかしげていると、今まで晴れていた空に突然黒雲がわき出し、見る見るうちに船へと近づいてきます。 
「大変だ、嵐が来るぞ!」 
 船乗りたちがそれぞれの持ち場へ行こうとした時、黒雲の上から大きなネコが現れて、いきなり船頭を引きずり上げると、そのまま雲の中へ消えてしまったのです。 
 同時に海は激しい嵐となり、船は木の葉のようにゆれて、船乗りたちは生きた心地がしません。 
「どうか、どうかお助けを。今の事は決してしゃべりませんから!」 
 船乗りたちが船にしがみつきながら必死で叫ぶと、やがて嵐が治まりました。 
 しかし船頭は空へ引きずりあげられたまま、二度と戻っては来なかったそうです。 
      おしまい 
         
         
        
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