| 
      | 
     
          福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの日本昔話 
         
        
       
金を拾ったら 
山梨県の民話 → 山梨県情報 
      
      
       むかしむかし、あるところに、とても貧乏な男が二人いました。 
 いくら働いても人に借りたお金も返せないで、ある暗い晩に、二人はそろって夜逃げをしたのです。 
 夜逃げをしてどこかへ行ってしまえば、借金を返さなくても大目にみてもらえるような時代でした。 
 二人はまっ暗な夜道をどんどん逃げて、夜が明ける頃には、だいぶ遠くまで来ました。 
「このあたりまで来ればもう大丈夫。追いかけられてつかまることもないだろう」 
と、二人は、いくらか気持ちが楽になってきました。 
 それでいろいろと、お金に苦労した話などをしながら歩いて行きました。 
「おれたちはお金で苦労したが、金は天下の回りものと言うからな。ここらで、そろそろ回ってきてもいいもんだか。・・・おい、もしおれがここでお金を拾ったら、どうすると思う?」 
 一人が聞くと、もう一人が言いました。 
「決まっているじゃないか。おれにも半分くれるだろ」 
「とんでもない! 拾ったらおれの物だ。お前なんぞにやるもんか!」 
「なんだと。友だちだというのに、お金を一人じめしようというのか。お前がそんな欲張りとは知らなかったぞ。おまえはまるで、イヌやネコと同じだ!」 
 すると相手は、かんかんに怒り出しました。 
「イヌやネコとはなんだ! もう一度言ってみろ!」 
「ああ、何度でも言ってやる。人間の心を忘れたやつは、イヌやネコと同じだ」 
「もう、がまんできねえ!」 
「おう、かかってこい!」 
 二人は道のまん中で、とっくみあいのけんかをはじめました。 
 そのとき、向こうから一人の旅人がやってきました。 
「やめろやめろ、やめないか!」 
 旅人が、なんとか二人を引き離すと、二人とも着物が破けてボロボロです。 
「いったい、どうしたというんだ?」 
 すると、一人の男の人が言いました。 
「友だちというのに、こいつはお金を拾っても、おれに少しもよこさないんだ!」 
「何をいいやがる。いくら友だちでも、おれの拾った物はおれの物だ。お前になんかやるものか!」 
「だからお前みたいな奴は、イヌやネコと同じだというんだ」 
「おれがイヌやネコなら、お前はイヌやネコにたかるノミだ」 
「なんだと!」 
「やるか!」 
 二人はまた、つかみあいをはじめようとしました。 
「待て待て! あわてるんじゃない。わしがけんかをしないようにしてやるから、まず、拾った金をここへ出してみろ」 
 すると二人は、あわてて言いました。 
「いや、まだお金なんか拾っていない」 
「そうだ。もし拾ったら、という話じゃ」 
「はあ?」 
 それを聞いて、旅人は腹をかかえて大笑いしました。 
「お前たちは、なんという欲張りだ。拾いもしないお金のことで、けんかをするなんて」 
「・・・・・・」 
「・・・・・・」 
 二人の男の人は、なんの役にも立たないけんかをしたことがわかり、きまり悪そうに頭をかきました。 
 そして、おたがいに貧乏のために心まで貧しくなっていたことに気がつき、それからは仲良く二人で旅をして行ったという事です。 
      おしまい 
         
         
        
            | 
      | 
     |