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          福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読 
         
          
         
暗闇の黒ウシ 
埼玉県の民話 → 埼玉県情報 
      
      
       むかしむかし、ある宿屋で、二人の絵かきと江戸から来た男が一緒の部屋になりました。 
 三人で話しているうちに、江戸の男が言いました。 
「ところで、お前さんたちのお仕事は何ですか?」 
 すると一人の絵かきが、胸を張って言いました。 
「わしは絵かきじゃ。めずらしい国を旅しながら、絵をかいている」 
 するともう一人の絵かきも、胸を張って言いました。 
「わしも絵かきじゃ。二人で旅をしながら、美しい景色(けしき)を絵にかいている」 
 それを聞くと、江戸の男はくやしくなり、 
「それはぐうぜん。実はわたしも絵かきでしてな。江戸では、少しばかり有名ですぞ」 
と、うそをついたのです。 
 すると、二人の絵かきが言いました。 
「それはきぐうだ。それなら、三人で絵のかき比べをしよう」 
「それはよい。江戸の絵かきの腕前を見てみたいしな」 
 江戸の男は、こまってしまいました。 
(これは弱ったぞ。おれは、絵をまるでかけないのに・・・) 
 でも、今さらうそだとは言えません。 
 そこで江戸の男は、時間かせぎに言いました。 
「それじゃ、まずはそちらからかいてもらいましょう」 
 そこで最初の絵かきが、さらさらさらと絵をかきました。 
 お母さんが小さい子どもにご飯を食べさせている絵で、なかなかに上手です。 
 でも江戸の男は、わざとつまらなそうに言いました。 
「母親が、口を閉じているのはおかしい。子どもにご飯を食べさせる時は、親も一緒に口を開けるものだ。まだまだですな。それじゃ次の方」 
 もう一人の絵かきは、木こりが木を切っている絵をかきました。 
 これも、なかなかに上手です。 
(さすがに絵かきだ。二人ともうまいもんだ) 
 江戸の男は心の中で感心しましたが、でも、やっぱりつまらなそうに言いました。 
「これだけ木を切っているのに、木のくずがないのはおかしい。まだまだですな」 
 けちを付けられた二人の絵かきは、おもしろくありません。 
「それでは、いよいよあなたの腕前を見せてもらいましょう。それだけ言うのですから、さぞかしお上手なんでしょうな」 
「うむ。よろしい」 
 江戸の男は筆(ふで)にたっぷり墨(すみ)をつけると、紙にぺたぺたぬりつけて、紙をまっ黒にぬりつぶしました。 
 二人の絵かきは、ビックリしてたずねました。 
「・・・いったい、これは何の絵ですか?」 
「ただたんに、黒くぬりつぶしただけのように見えるが」 
 すると江戸の男は、すました顔で言いました。 
「これがわからぬとは、お二人ともまだまだですな。これは、まっ暗やみから黒ウシが出てきたところです」 
      おしまい 
        
         
        
       
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