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王子と指輪

王子と指輪
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 むかしむかし、ある国に、若い王子がいました。
 この王子は、お母さんと二人で、まずしくくらしていました。
 ある日、お母さんは王子に一まいの金貨をわたしていいました。
「これをつかって、らくなくらしができるように考えてごらん」
 お母さんは王子に知恵(ちえ)とお金のある、りっぱな王子さまになってほしいと思ったのです。
 つぎの日、王子は町で、頭に大きな袋をのせた男にあいました。
「もしもし、その袋には、どんな宝ものがはいっているんですか?」
「これはネコですよ。毛なみのよい上等のネコです」
 王子はネコが大すきだったので、たいせつな金貨をやって、ネコを一ぴきわけてもらいました。
「まあ、ネコ一ぴきで金貨をだましとられるなんて、おまえはなんというバカものでしょう」
 お母さんは、ガッカリしました。
 でも何日かたつと、また王子に金貨をわたしていいました。
「こんどこそ、気をつけてお金をつかうのですよ」
 ところが散歩にでて、ヘビ使いにであった王子は、こんどはヘビと金貨をとりかえてしまったのです。
 お母さんは、あきれて、
「もうわたしには、とてもおまえのめんどうはみきれません、じぶんの力でくらすようにしなさい」
と、いうと、王子をおいたまま、おばあさんの住んでいる、遠い国へいってしまいました。
 王子はネコとヘビをつれて、トボトボと旅にでました。
 こうして王子は何年ものあいだ、家から家へこじきをしてあるきながら、ネコとヘビをたいせつにそだてました。
 こうしたある日のこと、王子は町でお母さんにであいました。
 お母さんは、かなしんでいいました。
「いつまでこじきをつづけているつもりなの。そんなきたないヘビは早くすててしまいなさい」
 王子は、かなしそうにいいました。
「ヘビくん、ごめんよ。ぼくがだらしないから、仲良しのきみとも別れなければならないんだ。本当にごめんよ」
 すると、ヘビが言いました。
「ああ、心やさしい王子さま、あなたはいいかたなのに、なぜ、不幸な目にばかりあうのでしょう。もしよかったら、わたしの国へいきましょう。わたしの父はヘビの国の王です。父は、わたしがせわになったお礼に、魔法の指輪(ゆびわ)をくれるでしょう。でも、指輪はぜったいにてばなしてはいけませんよ」
 こうしてヘビからもらった指輪をはめた王子は、ネコといっしょに旅をつづけ、ふかいジャングルにやってきました。
 日はとっぷりくれて、どこまでいっても、うす気味わるいけもののうなり声がします。
「つかれたなあ。このジャングルが、わたしの国だったらいいのに。大きなご殿にあかりがともっていて、わたしをたすけてくれた人たちと、くらせたらいいのになあ」
 王子が一人ごとをいったそのとき、たちまちジャングルは消えてなくなり、緑の木につつまれた、かがやくようなご殿が目の前にうかびあがりました。
 ご殿のまどからは、王子のお母さんや知りあいの人たちの、うれしそうな顔がのぞいています。
 王子はいつのまにか、りっぱな王さまになって、おともをしたがえて立っていたのです。
 魔法の指輪のおかげで王さまになった王子は、美しいおきさきをむかえて、しあわせにくらしていました。
 ある日、となりの国の王さまが、この国の海辺をとおりかかりました。
と、そこに、美しい長い髪が、クルクルとマリとなってとんできました。
「なんときれいな髪だろう。きっと、美しい姫がおとしたものにちがいない。ぜひ、この人をきさきにむかえたいものだ」
 となりの国の王さまは、さっそくおふれをだしました。
「この髪の持ち主をつれてきた者に、たくさんのほうびをつかわす」
 海辺に住むおばあさんが、これを見てニヤリとわらいました。
「これは海に水あびにくる、おきさきの髪にちがいない。おきさきをだまして、となりの国の王さまのところへつれていこう」
 つぎの日、海辺に水あびにきたおきさきに、おばあさんはかなしげな身の上話しをしました。
「まあ、かわいそうなおばあさん」
 やさしいおきさきは、おばあさんをご殿にひきとってやりました。
 さて、おばあさんはご殿ではたらいているうちに、魔法の指輪のひみつを知ってしまいました。
「なんというすばらしい指輪だろう。あの指輪さえ手にはいれば、もうこっちのものさ」
 ある日、おばあさんはいかにもつらそうにいいました。
「ああ、頭がいたくてわれそうだ。医者や薬ではなおせない。おやさしい王さま、おきさきさま。どうかちょっとだけ指輪をかしてくださいませんか」
 お人よしの王子は、ついうっかり指輪をわたしてしまいました。
 そのとたん、おばあさんのすがたは空にまいあがり、たちまち見えなくなってしまいました。
 となりの国の王さまは、毎日、首をながくして、いい知らせをまっていました。
「王さま、やっと見つけましたよ。ごほうびをください」
 やってきたのは、あのおばあさんです。
「この指輪をはめて、姫をよんでごらんなさい。そして、おきさきになれと命令すればいいのです」
 こうして、となりの国の王さまは、指輪の力で王子のおきさきをじぶんのものにしてしまいました。
 かわいそうに指輪を取られた王子は、おきさきもご殿もけらいもなくして、もとのジャングルにネコと二人だけでたっていたのです。
「ヘビのいいつけをわすれて、指輪をかしたわたしがバカだった。これからはまた、こじきぐらしだ」
 王子とネコは、またあてのない旅に出ました。
 王子はやがて、となりの国のご殿の前につきました。
 そこではまずしい人びとが、おきさきから食べ物をもらっていました。
 王子とネコが、おちた食べ物をひろおうとすると、とつぜんネズミの大軍がやってきて、あっというまに、食べ物をぜんぶさらってしまいました。
 さあ、ようやくネコの出番です。
 ネコはカンカンにおこって、いちばんふとった王さまネズミの首をつかまえて、どなりました。
「こらっ。わるいやつめ! おまえをたべてしまうからな!」
 王さまネズミは、ふるえながらいいました。
「どうかおたすけください。そのかわり、なんでもいいつけをまもりますから」
「ふん。それじゃこうしよう。わたしのご主人は、この国の王さまに指輪をとられてこまっている。とりかえしてくれれば、おまえの命はたすけてやろう」
 さて夜がふけると、大軍をひきいたネズミの王さまはご殿にむかいました。
「宝の箱をさがすのだ!」
「指輪をみつけて、王さまの命をおたすけしよう!」
 ネズミのけらいたちは手わけして、かたっぱしから宝の箱をあけてみました。
「あっ、あったぞ。指輪だ!」
「ばんざーい」
 こうして王子は、ネコのおかげで指輪をとりもどすことができました。
 王子が指輪をはめると、キラキラとかがやくご殿があらわれ、けらいが大ぜいあつまりました。
 そして美しいおきさきが、うれしそうにかけよってきます。
 ネコとヘビをそだてたお人よしの王子は、こうしてネコとヘビにたすけられ、しあわせにくらしたということです。

おしまい

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