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          福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話 
       
        
       
おばあさんの家 
ドイツの昔話 → ドイツの国情報 
      
       
      
      
       むかしむかし、海を見おろす丘の上の小さな家で、貧乏(びんぼう)なおばあさんが一人ぼっちで住んでいました。 
 おばあさんは体が悪くて、何年も寝たきりでした。 
「暗くなってきたわ。日が暮れるのかしら?」 
 おばあさんは、海を見ました。 
「おや? あの雲(くも)・・・」 
 水平線の上に、黒い小さい雲が浮かんでいます。 
「おじいさんが、よく雲の話をしてくれたけれど」 
 なくなったおじいさんは船乗りで、大きい船に乗って世界中を回っていたのです。 
 おばあさんは、ハッとしました。 
「たいへん! あの雲はあらしの前ぶれ。もうすぐ恐ろしいあらしが、大波をつれて押し寄せてくるわ。町の人に早く知らせないと」 
 おばあさんはなんとかして、少しでも早く町の人たちに知らせなければと思いました。 
 でも体の悪いおばあさんには、町まで行く力がありません。 
 おばあさんはベッドからずり落ちると、動かない体を引きずって窓の所まではっていきました。 
「町の人たち! あらしが来るよ、早く逃げて!」 
 おばあさんは、窓につかまってさけびました。 
 でも誰も、おばあさんの声に気がついてくれません。 
 そうしているうちにも、雲はまっ黒にふくれあがってきました。 
 もうすぐ山のような大波が、町の人たちをのみ込むでしょう。 
「ああ、どうしたらいいんだろう?」 
 おばあさんは、自分の部屋を見回しました。 
「そうだわ! ベッドに火をつけましょう。この家が燃えれば、町の人たちも気づくはず」 
 おばあさんはストーブの火をとってきて、ベッドのワラにつけました。 
 ワラはたちまち、真っ赤に燃え上がりました。 
「燃えておくれ! 大きく燃え上がって、町の人たちを呼んでおくれ!」 
 おばあさんは、何とか家の外へはい出しました。 
 ベッドの火は強くなってきた風にあおられて、メラメラと屋根に燃えうつりました。 
「火事だ! 丘の上の家が燃えてるぞ!」 
 町の人たちが、火事に気づいてさけびました。 
「火事だ! 火事だ!」 
「あの家には、病気のおばあさんが一人で寝ているんだ!」 
「早く助けに行こう!」 
 町の人たちはみんな、丘へ向かってかけ出しました。 
「おばあさん、大丈夫か!」 
 町の人たちがやって来ると、おばあさんは海を指さして言いました。 
「大波が来るよ! みんな、はやく逃げるんだ」 
「えっ! 大波が!?」 
 見てみると海の上は真っ黒で、おそろしい風がうなり、山のような大波が姿を現しました。 
「大変だ! みんなをこの丘に連れてくるんだ!」 
 
 町に住む最後の一人が丘の途中までかけあがったとき、真っ黒い大波が町をのみ込みました。 
 そのようすを、町の人はふるえながら見ていました。 
「おばあさんが、わたしたちを助けてくれたんだ!」 
「自分のベッドや、家まで焼いて」 
「ありがとう。ありがとう」 
 みんなの目に、うれし涙が光りました。 
 おばあさんの目にも、同じ涙が光っていました。 
      おしまい 
          
         
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