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10月22日の世界の昔話
  
  
  
  トム・ティット・トット
  イギリスの昔話 → イギリスの国情報
 むかしむかし、美人だけど食いしん坊でおっちょこちょいの娘と、そのお母さんがすんでいました。
 ある日、お母さんがパイを五つ焼きました。
 ところが焼きすぎてしまって、パイの皮がかたくなってしまったのです。
 そこで、お母さんは、
  「娘や、このパイのやわらかさがもどってくるまで、棚(たな)にならべておいておくれ」
  と、娘にいいつけました。
 けれども娘は、かんちがいをして、
  「あら、パイがもどってくるなら、わたしが食べてもだいじょうぶね」
  と、五つのパイを、みんな食べてしまいました。
 晩ごはんの時、これを知ったお母さんはガッカリです。
 お母さんは糸車をもち出すと、糸をつむぎながら歌い出しました。
  ♪うちの娘が、食ベちゃった
  ♪パイを五つも、食べちゃった
 そこへ、王さまが通りかかって、
  「これこれ、いま、なんと歌っていたのだ?」
  と、たずねました。
 お母さんは、本当のことを知られてははずかしいので、あわてて歌を歌いかえました。
  ♪うちの娘が、つうむいだ
  ♪糸を五かせも、つうむいだ
 かせとは、ワタやアサからつむいだ糸をまく道具のことで、ふつうの人には、一日に一かせも糸をつむぐことはできません。
 王さまは、すっかり感心して
  「一日に五かせも糸をつむぐとは、すばらしい娘だ。ぜひ、わしのおきさきにもらいたい。おきさきになったら、一年のうち十一ヶ月は、なんでもすきなことをやらせてやろう。だが、さいごのひと月だけは、毎日、五かせの糸をつむいでもらおう。もしできなければ、娘は殺してしまうぞ」
 お母さんは、よろこんでしょうちしました。
 結婚してしまえば、糸をつむぐ約束など、なんとかなると思ったからです。
 こうして娘は、おきさきさまになりました。
 美しい服に、おいしいごちそうに、たくさんのめしつかい。
 娘は十一ヶ月のあいだ、本当に幸せでした。
 ところが、その十一ヶ月もさいごの日になると、王さまは娘を、これまで見たこともない部屋につれていきました。
 そこには糸車が一台と、イスがひとつあるだけでした。
 王さまは、娘を部屋に入れると、
  「明日から、この部屋で糸をつむぐのだ。夜までに五かせの糸をつむがないと、首をきってしまうからな」
  と、いって、出ていってしまいました。
  「どうしよう? ・・・わたし、糸なんてつむげないのに」
 娘がシクシクないていると、だれかがトントンと、まどをたたく音がします。
 娘がまどをあけると、長いしっぽをはやした、小さな小オニがたっていました。
  「なんでないているんだい? おれが力になってやってもいいよ」
と、小オニが、いいました。
 そこで娘は、思いきって今までのことをみんなはなしました。
  「よし、おれが糸をつむいでやるよ。毎朝、アサをもっていって、夜までには五かせの糸にしてきてやろう」
 小オニはそういってから、ニヤリとわらいました。
  「そのかわり、ひと月のうちにおれの名まえをあててみろ。毎晩、三回ずついわせてやるからな。あたらなかったら、おまえはおれのお嫁さんになるんだ」
  (ひと月のうちなら、名まえくらいあてられるでしょう)
  と、思った娘は、小オニのいうことをしょうちしました。
 つぎの日、娘は一日分のアサと食事といっしょに、部屋にとじこめられました。
 トントン。
 さっそく、まどをたたく音がします。
 娘がまどをあけると、あの小オニがたっていました。
 小オニはアサをうけとると、すぐにすがたをけしましたが、夜にはちゃんと、五かせの糸にしてもってきました。
  「さあ、おれの名まえをあててみろ」
  「ビル? それともネッド? もしかしてマーク?」
 娘は三つの名まえをいいましたが、あたりません。
 小オニはうれしそうに、しっぽをクルクルまわすと、出ていってしまいました。
 それからは毎朝、小オニがやってきて、アサを五かせの糸につむいできてくれました。
 でも、どうしても名まえはあたりません。
 娘はだんだん、こわくなってきました。
 さて、いよいよ明日がさいごの日です。
  「明日の夜を、楽しみにしてるぜ」
  と、いって、小オニは帰っていきました。
 そのあと、王さまがやってきていいました。
  「まいにち、よくがんばったな。これでわしも、おまえを殺さずにすみそうだ。それはそうと、おまえのつむぐ糸は評判がよいぞ。おまえのようなはたらき者の妻(つま)がいて、わしも鼻が高い。ほうびに糸をつむぐのは今日が最後で、今後は一生、糸をつむがなくともよいぞ。さて、今夜はここで、おまえと食事をしよう」
 その食事の時に、王さまは急に思い出しわらいをしていいました。
  「わしは今日、狩りにいって、おかしなものを見たぞ。小さな穴の中で、小オニが糸車をまわしているんだ。そいつはわしに見られているとも知らず、長いしっぽをふりながら歌っておった。『ミニー、ミニー、ノット、おれの名まえは、トム・ティット・トット』とな」
 これを聞いた娘は、どんなにうれしかったことでしょう。
 もう、小オニのお嫁さんにならなくてすみます。
 つぎの日の夜になりました。
 小オニは娘に糸をわたすと、ゾッとするようなわらい顔でいいました。
  「さあ、おれの名まえをあててもらおうか」
  「ソロモンかしら?」
 娘は、わざとまちがえていいました。
  「ちがう、ちがう」
  「それなら、ゼベダイ?」
 娘はまた、わざとまちがえていいました。
 小オニは娘がふたつもまちがえたので、うれしそうにいいました.。
  「ちがう、ちがう。さあ、あとひとつだ。今度まちがえたら、おれのお嫁さんになるんだぞ」
 小オニは、うれしそうにしっぽをまわしながら、娘のそばに近づいてきました。
 すると娘は、わらいながら小オニを指さしていいました。
  「ミニー、ミニー、ノット、おまえの名まえは、トム・ティット・トットね」
  「ウギャー! なぜ、わかったんだー!」
 小オニはさけぶと、暗やみの中ににげていきました。
   そしてそれを、とびらのすき間からのぞき見していた王さまは、まんぞくそうにほほえみました。
おしまい