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      福娘童話集 > お話し きかせてね > きょうの世界昔話 
       
        
       
イチジクと男 
ユーゴスラビアの民話 → ユーゴスラビアの情報 
      
       
      
       むかしむかし、あるところに、とても人のよい男がいました。 
 この男は自分の家でとれる果物は、いつも王さまに届ける事にしていました。 
 ある年の事、マルメロの実が、あまり見事に実ったので、男はさっそく王さまのところに持って行こうと思いました。 
 そして、 
「今年はマルメロがよく出来たから、あれをカゴにいっぱいにお届けしよう」 
と、奥さんに言いました。 
 ところが奥さんは、せっかくの大きなマルメロを王さまにあげるのは、何だかもったいないと思い、こう言いました。 
「あなた。マルメロよりも、イチジクにしなさいよ」 
「ああ、お前が言うならそうしよう」 
 そこで男は、おいしそうなイチジクをカゴいっぱいに選んで、王さまのお城に届けました。 
 その時、王さまは、お昼ご飯中でした。 
 お酒も少しも飲んでいたので、ごきげんです。 
「よく来た。さあ、こっちへおいで」 
 男は、うやうやしくおじぎをしてから、王さまの前に取れたてのイチジクを差し出しました。 
「王さま、これは家で取れたイチジクでございます。どうぞ、たくさん召し上がって下さい」 
 それを見た王さまは、 
(何だイチジクか。こんな物、少しも珍しくないな) 
と、思いました。 
 そして王さまは、男をからかってみたくなりました。 
「ほほう、どれどれ」 
 王さまはイチジクをつかむと、いきなり男の頭に投げつけたのです。 
 投げられたイチジクは、男の頭に当たってペチャリと潰れました。 
 すると男は、 
「ありがたい!」 
と、叫んだのです。 
「なに、ありがたいだと?」 
 王さまは、またイチジクを投げました。 
 するとまた、ペチャリ。 
「ありがたい!」 
 男がまた叫んだので、王さまは面白くなって、次々とイチジクを投げました。 
「ありがたい! ありがたい!」 
 とうとうイチジクは、全部なくなってしまいました。 
 投げる物がなくなった王さまは、不思議そうな顔で男に尋ねました。 
「なぜお前は、いちじくをぶつけられるのが、ありがたいのかね?」 
 すると男は、かしこまって答えました。 
「はい。わたしは始め、マルメロを王さまにお届けするつもりでございました。 
 ところが妻は、マルメロよりもイチジクの方が良いと言うのです。 
 妻の言うことはいつも正しいので、わたしはその通りにしました。 
 でもその時は、なぜ妻がイチジクの方が良いと言ったのかわかりませんでした。 
 でも、いまは、わかりました。 
 もしもやわらかいイチジクでなくて、あの固いマルメロだったらどうでしょう。 
 わたしの頭は、今頃はたんこぶだらけです。 
 それで、 
『ああ、マルメロでなくてよかった』 
と、思ったら、ついありがたいと叫んでしまったのです。 
 それにしても王さま、わたしの妻は、何て賢い妻なのでしょう。 
 きっと妻は、こうなる事を知っていたのです。 
 そんな賢い妻と一緒に暮らせて、わたしは何て幸せ者でございましょう。 
 おお、神さま。 
 わたしの賢い妻に、おめぐみを」 
 これを聞いた王さまは、 
「ぷっ」 
と、吹き出してしまいました. 
 そして王さまは、この人の良い男に、イチジクのカゴいっぱいに、ごほうびのお金をやったという事です。 
      おしまい 
          
         
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