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10月25日の世界の昔話
  
  
  
  悪魔をだましたイワン
ベラルーシ共和国の昔話 → ベラルーシの国情報
 むかしむかし、あるところに、三人の息子をもったおじいさんとおばあさんがいました。
 一家はその日の食べ物にもこまるほど、貧乏(びんぼう)でした。
 そのうちに、おばあさんが死にました。
 おじいさんもおばあさんのあとを追うように、おもい病気になりました。
 おじいさんは死ぬまえに、息子たちをよんでいいました。
  「おまえたちにわけてやるものもないが、こんなものでがまんしておくれ」
 こういって、一番上の息子には黄色いネコをやり、まんなかの息子にはひきうすを、一番下の息子のイワンには、わらじをつくる木の皮をやりました。
 おじいさんが死んでしばらくすると、息子たちは世の中にでてみようと思いました。
 一番上の兄さんは、黄色いネコをだいて、仕事をさがしにいきました。
 ドンドン歩いていくと、夜になりました。
 兄さんは一けんの家の戸をたたいて、とめてもらおうとしました。
 すると家の人が、こんなことをいいました。
  「旅のおかた、この家はどこもかしこもネズミだらけで、ホトホトこまっています。あなたも、かじられてしまいますよ」
  「心配いりません。なんとかなるでしょう」
 兄さんは、黄色いネコといっしょに、ゆかの上へねました。
 つぎの朝、家の人は目をさましてみてビックリ。
 ゆかの上に、ネズミの死がいが山のようにつんであって、そばで黄色いふしぎなけものが、のどをゴロゴロならしているではありませんか。
 その国の人たちは、ネコという動物を見たことがなかったのです。
  「旅のおかた、おねがいです。どうかこのけものを売ってください」
  「とんでもない。これは売りものではありません」
  と、兄さんはことわりました。
 この話はたちまち、この国の王さまの耳にはいりました。
 王さまは、自分のご殿に兄さんをとまらせました。
 ネコはかたっぱしから、ネズミを殺しました。
 あくる朝、山のようなネズミの死がいを見た王さまは、黄色いけものがほしくてほしくてたまりません。
  「なんでも、ほしいものをいいなさい。そのかわり、そのけものをゆずってくれ」
  「王さま。銀貨をのこらずまいてくだされば、ネコをさしあげましょう」
 王さまはしかたなく、自分の銀貨をありったけ、まきちらしました。
 上の兄さんは、銀貨を集めて国ヘ帰りました。
 そして、りっぱな家をたてて、お嫁さんをむかえて、しあわせにくらしました。
 それを見たまんなかの兄さんも、ひきうすをかついで、しあわせを見つけにでかけました。
 ドンドン歩いていくと、夜になりました。
 見ると、森のそばに一けんの小屋があります。
 それは、だれも住んでいない小屋でした。
 まんなかの兄さんは、そこにとまることにしました。
 その晩、ドロボウたちが、その小屋にはいってきて、ぬすんできた金貨をゆかにつみあげました。
 そのとき、小屋のすみでねていたまんなかの兄さんが、ねがえりをうちました。
 そのはずみにひきうすにぶつかって、ガラガラガラン! と大きな音をたてました。
 おどろいたドロボウたちは、金貨をほうりだして、いちもくさんににげていきました。
 まんなかの兄さんは、金貨をひろい集めて国へ帰りました。
 そして、上の兄さんのように、しあわせにくらしました。
 それを見た、すえっ子のイワンはいいました。
  「どれ、こんどはぼくが、運だめしをする番だ」
 イワンはわらじをはいて、旅にでかけました。
 ドンドン歩いていくうちに、わらじがボロボロになってきました。
 イワンは沼地のそばにすわって、新しいわらじをつくるために、木の皮をさきはじめました。
 するととつぜん、沼にブクブクブクと、あわがたって、悪魔(あくま)があらわれました。
  「やあ、イワン。なにをしているんだね?」
  「見ればわかるだろう。ひもをつくっているんだよ」
  「なにに、つかうのかね?」
  「この沼から、おまえたち悪魔をひっぱりだして、市場(いちば)で売ろうと思ってね。なにしろここには、悪魔がウヨウヨいるからな。さぞかし、もうかるだろうよ」
  「ちょっと、まってくれよ! イワン、いや、イワンさん。それはこまるよ。なんでもほしいものをだすから、それだけはかんべんしてくれよ」
  「そうだな。ボウシにいっぱい金貨をくれれば、ゆるしてやろう」
  「それぐらいなら、おやすいご用だ」
 悪魔が金貨をとりに沼の中にもぐったすきに、イワンは、ほそくてふかい穴をほって、その上に自分のそこのぬけたボウシを乗せました。
 やがて悪魔が、金貨の袋を持ってもどってきました。
 悪魔は、イワンのボウシのなかに金貨を流しました。
 けれども、ちっとも金貨はたまりません。
 悪魔は、
  (おかしいなあ)
  と、思いましたが、しかたなく、またひと袋持ってきました。
 これでどうにか、ボウシはいっぱいになりました。
  「さあ、一人ではおもくて持ちあげられまい。てつだってやろう」
  「いや、てつだってくれなくてもいいよ」
 イワンはことわりましたが、悪魔は聞きません。
 よいしょと、ボウシを持ちあげて、ボウシの下の穴を見つけてしまいました。
  「こいつ、だましたな! どうしてやるか、親分のところへ聞きにいってくるから、まってろ!」
 話を聞いた親分は、悪魔の中で一番の力もちを、イワンのところへやりました。
 力もちは沼からとびだすと、イワンにいいました。
  「すもうに勝ったほうが、金貨をとることにしよう」
  (よわったなあ。こんなやつには、かないっこないぞ)
  と、イワンは思いながら、あたりを見まわしました。
 むこうのモミの木の下に、大きなクマがすわっています。
 イワンは、悪魔にいいました。
  「いいとも。だが、おれとすもうをとるまえに、あそこにおれのじいさんがいるから、まず、じいさんとやってみろ」
 力もちは、クマのところヘかけていきました。
  「さあ、こい。じいさん」
 クマはたちあがると、いきなり悪魔をつかみました。
 その力のものすごいこと。
 悪魔の力もちはとてもかなわず、やっとのことでにげだしました。
  「とてもだめです。イワンのじいさんにだってかないません」
 それを聞いた悪魔の親分は、こんどは一番足のはやい男をやりました。
 はや足は沼からとびだして、イワンにいいました。
  「かけっこに勝ったほうが、金貨をとることにしよう」
 イワンは、あたりを見まわしました。
 見ると、ヤブの下にウサギがいます。
  「いいとも。だがそのまえに、あそこにいる、すえの息子とやってみろ」
 はや足は、さっそくウサギのそばへかけていこうとしました。
 ところが、ウサギは悪魔がきたものですから、ビックリしてヤブの中へとびこみました。
 はや足はむちゅうで追いかけましたが、どうしても、ウサギに追いつくことはできません。
 それを聞いた悪魔の親分は、こんどこそと、口笛の名人をやりました。
 笛ふきは沼からとびだして、イワンにいいました。
  「口笛のうまいほうが、金貨をとることにしよう」
  「いいとも。まず、おまえさんからだ」
 悪魔が口笛をふくと、森の木はふるえて、木の葉がちりました。
 イワンがふく番になりました。
 イワンは、悪魔にいいました。
  「さて、笛ふきくん。目をしばっておいたほうがいいよ。さもないと、おでこのほうヘ、目がずりあがってしまうからな」
 笛ふきはおどろいて、布でかたく目をしばりました。
  「さあ、ふいてくれ」
 笛ふきがいうと、イワンはこん棒をふりあげて、えいっとばかりに、笛ふきのひたいをなぐりつけました。
 笛ふきはあまりの痛さに、腰をぬかしそうになりました。
  「これはほんの小手しらベ。こんどは、もっとでっかいやつをふくぞ」
  「や、やめてくれ。もうたくさんだ。金貨はおまえにやるから、口笛だけはやめてくれ」
   そこでイワンは、山ほどの金貨をかついで、めでたく国へ帰りました。
おしまい