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        福娘童話集 > お薬童話 > 更年期障害をやわらげる お薬童話 
         
        
       
人食い婆と、おつなの頭 
      
       むかしむかし、あるところに、おつなという女と、そのむこが住んでいました。 
 ある日、むこは仕事で、遠くへ行くことになりました。 
「なるべく早くもどってくるから、しっかり留守をたのんだぞ」 
 むこが出かけたあと、おつなは一人でなわを編んでいました。 
 するとそこへ見知らぬおばあさんがやってきて、おつなの編んでいるなわをいろりにくべたのです。 
「なっ、何をするんだよ!」 
 おつなが止めても、おばあさんは知らん顔です。 
 そのうちに燃えてしまったなわの灰を、おばあさんはムシャムシャと食べはじめたではありませんか。 
「・・・!」 
 おつなはびっくりして逃げ出そうとしましたが、体がふるえて立ちあがることも出来ません。 
「ヒッヒヒヒ、そんなら、あすの今ごろ、また来るでな」 
 おばあさんは灰だらけの口でニヤリと笑い、外へ出ていきました。 
 次の日、おつなはこわくて仕事も手につきません。 
 おばあさんが来るころになると、カヤの実を三つぶ持って、二階のつづら(→衣服などを入れるかご)の中へかくれました。 
 やがて、おばあさんがやってきました。 
「おや、いないのか?」 
 しばらくいろりのまわりを歩いていたおばあさんは、階段をのぼりはじめました。 
 おつなは、おばあさんをおどろかそうとして、 
 カチン! 
と、カヤの実をかみました。 
 おばあさんは、その音にハッとして足を止めます。 
「はて、何の音かな?」 
 それでもおばあさんは、階段をのぼってきます。 
 おつなはもう一度、カヤの実を口に入れて、 
 カチン! 
と、かみました。 
「なんだか、いやな音だね」 
 でも言うだけで、足を止めようともしません。 
 足音が、どんどん近づいてきます。 
 おつなは、こわくてこわくて息がつまりそうです。 
(おねがい! あっちへ行って!) 
 おつなは思いきって最後のカヤの実をかんで鳴らしましたが、もう、おばあさんはびくともしません。 
「ふふふ、におうぞ、におうぞ」 
 おばあさんは二階に来て、そこら中をかぎまわりました。 
(ああ、もうだめ!) 
 おつながつづらの中で手を合わせたとき、がばっと、ふたが開いたのです。 
「おおっ、いた、いた。今日は、お前を食いにきたよ」 
 おばあさんはおつなを引きずり出すと、足からムシャムシャ食べはじめて、あっというまに、体のほとんどを食べてしまいました。 
 でも不思議なことに、おつなは死なずに、まだ生きていました。 
「ああ、うまかった。残りは明日にとっておこう」 
 おばあさんは頭だけになったおつなを戸棚の中へしまうと、ゆっくり家を出ていきました。 
 次の日の朝、そんなこととは夢にも知らないむこが、家にもどってきました。 
「おつな、今帰ったぞ。・・・おい、おつな!」 
 いくら呼んでも、返事がありません。 
「おかしいな」 
 家中をさがしても、やっぱりいません。 
「それにしても、腹がへった」 
 そう思って、なにげなく戸棚を開けてみると、なんとおつなの頭が棚にのっていて、うらめしそうにジッとにらんでいるのです。 
「うえっ!」 
 びっくりしたむこが転がるように逃げ出すと、おつなの頭がコロコロと転がってきて、むこの胸にかぶりつきました。 
 むこはしかたなく、おつなの頭をかかえたまま外へ飛び出しました。 
 すると、おつなの頭が言ったのです。 
「お前さん、わたしをおいて逃げるつもりかい?」 
「と、とんでもない! おまえは、おらのかわいい女房だ!」 
「そんなら、わたしにごはんを食べさせておくれよ」 
 むこはしかたなく、人に見えないようにおつなの頭をだいて宿屋へ行き、二階に部屋を取って料理を運んでもらいました。 
 おぜんの前にすわったとたん、おつなの頭がおぜんの上に飛び降りて、 
「さあ、食べさせておくれ」 
と、口を開いたのです。 
 いくらかわいい女房でも、気味が悪くてがまんできません。 
「かんべんしてくれ!」 
 むこは、いきなりおつなの頭におはちをかぶせて上から帯をまきつけると、そのまま階段をかけ降りて、いっきに外へ飛び出しました。 
「お客さん、何事ですか?」 
 おどろいた宿屋の人が追いかけようとしたら、二階からおはちをかぶせられた女の頭が転がってきます。 
「お、お化け!」 
 そう言ったきり、宿屋の人は気を失いました。 
 おつなの頭は宿屋から転がり出て、むこを追いかけました。 
「た、た、助けてくれー!」 
 むこはさけびながら、必死に走り続けます。 
 どこをどう走っているのか、まったくわかりません。 
「お前さーん! お前さーん!」 
 おつなの声が、すぐ後ろから追ってきます。 
「もうだめだ!」 
 はっと気がつくと、目の前に、菖蒲(しょうぶ)とヨモギのはえた草むらがありました。 
 むこは夢中で、その草の中へたおれこみました。 
 すると、どうでしょう。 
 草むらの前まで追ってきたおつなの頭が、くやしそうに、 
「くそっ! 菖蒲やヨモギさえなかったら」 
と、言って、もと来た方へ転がっていったのです。 
「やれやれ、助かった。それにしても、菖蒲やヨモギが魔除けになるのは本当だったんだな」 
 むこは、ほっとして立ちあがりました。 
 そして菖蒲とヨモギをたくさんとって帰り、家の窓や戸口にさしておくことにしたのです。 
 おかげで人食い婆も、おつなの頭も、二度と家へはやってきませんでした。 
 
 今でも五月五日に、菖蒲やヨモギを軒下にさすのは、人食い鬼や魔物を追い払うためだそうです。 
      おしまい 
          
         
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