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2009年 4月1日の新作昔話

動くかかし

動くかかし
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて

♪音声配信
スタヂオせんむ

 むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
 夏の代表的な食べ物と言えばスイカです。
 スイカはむかしから人気のある食べ物なので、きっちょむさんの村でもスイカを作っていました。
 しかし、最近は夜になるとスイカ畑に忍び入り、よくできた甘くておいしそうなスイカをかたっぱしから盗んでいく、スイカ泥棒が現れたのです。
「せっかくのスイカを、なんて腹の立つ奴だ! 今夜こそ、ひっとらえてやるぞ!」
 村人たちは番小屋をたてて、一晩中スイカ畑を見張っていますが、スイカ泥棒を捕まえるどころか、ちょっと油断したすきに、また新しいスイカを盗まれてしまうのです。
 きっちょむさんの畑もやられてしまったので、いまいましくてたまりません。
「うーむ。何か、良い工夫はないものだろうか?」
 昼間の畑仕事をしながら、きっちょむさんは考えていましたが、
「・・・そうだ、これでいこう!」
と、何か名案を思いついたのか、急いで家にもどってきました。
 そして大きなわら人形を作ると、それに自分の着物を着せて、手ぬぐいでほおかむりをしました。
 かかしの出来上がりです。
「よし、これでいい。我ながら、なかなかの出来だ」
 さっそくきっちょむさんは、そのかかしをかついで自分のスイカ畑へ行きました。
 それを見た村人たちは、きっちょむさんに声をかけました。
「おいおい、きっちょむさんよ。そんなかかしを持って、どうするつもりだ?」
 きっちょむさんはスイカ畑のまん中にかかしを立てると、まじめな顔で答えました。
「何って、見ればわかるだろう。これは泥棒よけだ。毎晩毎晩、番小屋で夜明かしするのは、かなわんからなあ」
「泥棒よけだって?」
 それを聞いて、みんなは大笑いです。
「あははははは、こいつはいい!」
「きっちょむさん、お前、どうかしてるんじゃないのか? スイカ泥棒はカラスじゃなくて、人間だよ」
 しかしきっちょむさんは、ニッコリ笑うと、
「なあに、世の中には、カラスよりも馬鹿な人間もいるんだよ」
と、さっさと帰ってしまいました。
「はん。何を言ってやがる。人間がかかしを怖がるはずないだろうに」
「きっちょむさん、むかしから頭が良いのか悪いのか、よくわからねえな人だったが、やっぱり馬鹿だ」
「そうにちがいない。あははははは」
 村人は、腹をかかえて笑いました。
 そして道を通る人たちも、
「おやおや、あのスイカ畑には、かかしが立っているぞ。泥棒よけだそうだが、何ともかわった百姓があったものだ」
と、笑いながら過ぎていきました。
 さて、夜になりました。
 村人たちは今夜も夜明かしで見張りをするつもりで、それぞれ自分たちの番小屋に泊まり込みました。
 ですが、きっちょむさんの小屋には、だれ一人姿を見せません。
「おや? きっちょむさんめ、本当にかかしが泥棒よけになると思っていやがる。知らねえぞ、明日になって、スイカが一つ残らず盗まれても」
 今夜は雲が多く月も星もない真っ暗闇で、泥棒にはもってこいです。
 するとやはり、どこからともなく現れた二つの黒い影が、そろりそろりとあぜ道に入ってきました。
 そして、
「おいおい、馬鹿な奴もいるものじゃ。畑にかかしなんか立てて、番小屋はお留守だぜ」
「こりゃ、ありがたい。カラスと人間を間違えるとは」
「全くだ。おかげで今夜は、うんと稼げるというものだ」
 二人の泥棒は、きっちょむさんの畑に入り込みました。
 そして、出来るだけ大きなスイカを取ろうと、手さぐりで畑の中を探し回っていると、かかしのそばまでやってきました。
 すると突然、
♪ポカッ
と、いう音がして、泥棒の一人が悲鳴をあげました。
「あいた! おい、なんだって、おれの頭を殴るんだ?」
「はあ? おれは殴らないぞ。あいた! お前こそ、おれを殴ったじゃないか!」
「馬鹿いうな。なんでおれが殴るものか。お前こそ、あいた! こら、また殴ったな!」
 二人は思わず後ろを振り返り、そしてびっくりしました。
 なんと、後ろに立っていた大きなかかしが大きな声で、
♪ケッケケケケ
と、笑い出したのです。
「お、お、お化けだー!」
「た、た、助けてくれー!」
 二人はあわてて逃げ出そうとしましたが、スイカのつるに足をとられて、その場に倒れてしまいました。
 するとかかしが、倒れた泥棒の上にのしかかると、
「おーい、村の衆! 泥棒を捕まえたぞ! はやくはやく!」
と、大声で叫びました。
 なんとその声は、きっちょむさんの声でした。
 そして騒ぎを聞きつけた村人たちが、あわてふためく泥棒を捕まえたのです。
 実はきっちょむさん、わらで作った服を着て、こっそりかかしと入れ替わっていたのです。
「どうだい。かかしに捕まる、カラスよりも馬鹿な人間がいただろう」
 きっちょむさんは、ゆかいそうに笑いました。

おしまい

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