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2009年 5月25日の新作昔話
ライオン王子の先生
ロシアの昔話(クルイロフ童話) → ロシアの国情報
むかしむかし、森の王さまのライオンと、おきさきライオンが、生まれて間もない子ライオンのそばで、こんな事を話し合いました。
「この子は、わしの大事な跡継ぎ。大きくなって王の位についた時の為に、立派な教育をしなければならんな」
「それでは王子の教育係を決めて、色々な事を教えてもらったらどうですか?」
「それは良い考えだ。だが、誰がいい?」
「そうですね。キツネなら頭が良くて、とても物知りですわ」
「キツネ? 駄目だ、駄目だ! 確かにあいつは頭は良いが、あいつは嘘つきだ。嘘つきなんかに、大事な王子の教育を任せられるものか」
「それでは、モグラはどうでしょう。とても正直で、几帳面ですわ」
「モグラか? うむ、だがあいつは土の中で暮らしているせいか、太陽の下では、ろくに目が見えんというではないか」
「それなら、ヒョウはどうでしょう? ヒョウはとても勇敢で力も強く、動きも素早いですわ。ヒョウなら、きっと王子を申し分なくきたえてくれますわ」
「ヒョウ? だかヒョウはケンカが好きで、すぐに争いをおこす悪いくせがある。王子の教育係にはふさわしくない」
こうして王さまとおきさきは話し合い、ゾウ、キリン、ウシ、イノシシなど、思いつく動物を出し合いましたが、みんなそれぞれに欠点があって、王子の教育係には向いていませんでした。
「まったく、王子の教育係はどこにもいないのか?」
ライオン王は、大きなため息をつきました。
するとそこへ、鳥の王さまのワシがやってきて言ったのです。
「それなら、わたしが王子を教育しましょう」
「おお、ワシ殿。あなたなら安心だ」
「そうですね。ワシ王ならぴったりですわ」
王さまライオンとおきさきは、大喜びです。
なにしろ相手は自分と同じ王さまなので、これ以上の教育係はどこを探してもいません。
そこで王さまは、さっそく王子を三年間、ワシ王に預ける事にしました。
こうしてまだ赤ん坊のライオン王子は、ワシに抱かれて鳥の国へ行ったのです。
それから一年が過ぎ、二年が過ぎました。
その間に、鳥の国の小鳥たちは森へ飛んで来ては、
「王子さまは、とてもかしこく、立派にお育ちになっています」
と、ふれまわったのです。
ライオン王も、おきさきも、そして森中のけものたちも、王子の成長を楽しみに待つうちに約束の三年間が過ぎました。
そしてライオン王子は、とても立派に成長して帰ってきたのです。
「おおっ、とても立派だ。わしの若い頃にそっくりだ。やはり、鳥の王のワシに預けただけの事はある」
王さまは、大喜びで王子を抱きしめました。
「王子よ。今日から、お前が王となって森を治めるのだ。すぐにみんなを呼び集めよう。お前は今日まで何を習い、何を覚えてきたか。そしてみんなを幸福にするために、どんな事を考えているかを話してきかせるのじゃ」
王さまの呼びかけに、森中のけものたちが、我先にと集まってきました。
高い崖の上に立ったライオン王子は、見事なたてがみを日の光に輝かせて、誇らしげに胸を張ると演説を始めました。
「わたしは、ここにいる誰もが知らない事を知っている。
どんな鳥は何を食べるか。
どんな卵を産むか。
それから、カラスやウズラにいたるまで、どの鳥はどのくらいの水を飲むか。
どのくらい飛べるか。
鳥についての事なら、何一つ知らない事はない。
わたしは王の位についたなら、何よりもまず、みんなに鳥の巣作りを教えるであろう。
それからわたしは・・・」
王子は、なおも得意げに鳥の話しを続けましたが、聞いていた王さまも動物たちも、みんながっかりです。
「なんと、くだらないことを覚えてきたのだ」
鳥の事をいくら知っていても、森の生活には少しも役立ちません。
「仕方ない、自分で王子を育てず、人任せにしたわしが悪いのだから」
得意げに、まだ鳥の話を続ける王子の側で、王さまとおきさきライオンは、大きなため息をつきました。
これは、人に何かをお願いするときは、その人がどの様にするかを考えないと、こんなとんでもない事になると言う事を教えています。
おしまい
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