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2010年 4月30日の新作昔話
おもいやり
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある日の事、きっちょむさんの村に、山火事が起こりました。
さいわい、火はわずかばかり焼いただけで消し止めることが出来ましたが、火元は、たき火の不始末からだとわかったので、誰がたき火をしたのかと、庄屋さんは村のみんなを家に集めて調べました。
しかし、誰一人として、自分がやりましたと、名乗り出るものがありません。
そこでその夜は、誰が犯人か分からないまま、別れることになりました。
しかしきっちょむさんは、その犯人を知っていたのです。
それと言うのも、孝行者、働き者で通っている佐伍平(さごへい)が、山へゆりの根を掘りに行って、ちょうど火元のところで、たき火をしていたのを、きっちょむさんが仕事帰りに遠くから見ていたのです。
きっちょむさんは、佐伍平が名乗り出るのを待っていましたが、気の小さい佐伍平は、気まずそうにうつむいたまま、名乗り出ることが出来なかったのです。
そしてみんなが帰りかけると、自分もあわてて立ち上がりました。
するときっちょむさんは、何を思ったのか、すばやく佐伍平のちょうちんを見つけてろうそくに火をつけ、
「佐伍平、お前のちょうちんはここにあるよ」
と、渡しました。
罪悪感に苦しんでいる佐伍平は、お礼も言わずに、逃げるように外へ飛び出しました。
こうしてあとには、きっちょむさんと庄屋さんだけが残りました。
庄屋さんは、ためいきをついて、
「ああ、困った事だ。今夜のうちに白状してくれれば、わしの方で内々にすませるが、明日まで分からないとなると、山火事を役所に届けなければならぬ。そうすると、たき火をしていた者を調べられ、その者は牢屋へ入れられてしまう」
と、つぶやきました。
すると、きっちょむさんが、こう言いました。
「庄屋さん、大丈夫ですよ。犯人が泥棒でもない限り、今に戻ってくるでしょう。そして、ここには他の人がいないと分かったら、きっと白状してくれるでしょう」
それを聞いた庄屋さんが、
(さては、きっちょむさんが、また何か頭を働かせたな)
と、思っていると、ひょっこりと佐伍平が戻って来たのです。
そして、いきなり庄屋さんの前に手をついて、
「庄屋さん、お許し下さい! 山でたき火をして、不始末をしでかしたのは、わたしでございます」
と、白状したのです。
すると庄屋さんは、ほっとして、
「お前だったか。よく白状してくれた。なに、誰にでも失敗はある。それに、孝行者のお前の事だ、きっと、内々にすましてやるから安心しろ」
「はい、ありがとうございます。実は、みなさんの前で白状するのが恐ろしくて、黙ったまま家に帰りましたが、ちょうちんの火を消そうとすると、中に何かが光ったのでございます」
そう言って佐伍平は、懐から一枚の一分銀を取り出して、庄屋さんの前に置きました。
一分銀といえば、お米を一斗(いっと→一四キロ)も買う事の出来る大金です。
「どうして、わたしのちょうちんに入っていたのかわかりませんが、このままにしておけば、わたしは火の不始末をしただけでなく、泥棒になってしまいます。それにこれは、火の不始末を庄屋さんへ白状せよという、神さまの、おさとしに違いないと考えました。庄屋さん、どうかお許し下さい」
佐伍平は、ちょうちんをきっちょむさんから受け取った事に、気がついていないようです。
(さては、きっちょむさん。佐伍平が正直者だと見込んで、わざと一分銀をちょうちんに入れたのだな)
庄屋さんは佐伍平の火の不始末を内々にすませたあと、きっちょむさんに手みやげだと言って、お菓子と一緒に一分銀を返してやりました。
おしまい
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