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福娘童話集 > きょうの新作昔話 >大師井戸
2018年4月16日の新作昔話
大師井戸 弘法話
高知県・安芸郡の民話 → 高知県の情報
むかし、高知県室戸市の室戸岬(むろとみさき)の近くにある村には、ただ一つしか井戸がありませんでした。
しかもその井戸は海に近いせいか、水が塩辛くて飲む事が出来ません。
ある日、その村に旅のお坊さんが通りかかりました。
お坊さんは長旅に疲れて、のどがカラカラです。
そこでお坊さんは、井戸の前にいた村の娘たちに頼みました。
「娘さん。この井戸の水を恵んでもらえないだろうか」
それを聞いた娘たちは、申し訳なさそうに答えました。
「お坊さま。お疲れのところすみませんが、この井戸の水は塩辛くて飲めた物ではありません」
「塩辛いとな」
お坊さんが井戸に顔を近づけてみると、確かにこの井戸水からは潮の香りがします。
しかしお坊さんは、娘たちににっこり笑って言いました。
「この井戸水は、きっとおいしく飲めるはず。まずは、わしが飲んでみましょう」
お坊さんはそう言うと小声で何やらお経のようなものを唱え、そして井戸から水を汲みあげると、いかにもおいしそうにゴクリゴクリと飲んだではありませんか。
「ああ、うまい水であった。さあ、娘さんたちも飲んでみるとよい」
お坊さんはそう言うと、どこかへ歩き去ってしまいました。
「本当に、飲めるのかしら?」
娘たちは恐る恐る、井戸の水を飲んでみました。
すると不思議な事に、今まで塩辛かった井戸の水が、おいしい真水へと変わっていたのです。
その後、あのお坊さんが弘法大師だと知った村人たちは、大師への感謝を込めて、その井戸を『大師井戸』と呼ぶ事にしたのです。
おしまい
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