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2019年4月29日の新作昔話
山を持って来る
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、吉四六さんと言う、とんちの名人がいました。
ある日の事、近所の貧しい家に借金取りがやって来て、
「早く金を返せ! 返さなければ、この家を焼き払ってしまうぞ! それとも、お前の娘を借金の代わりにもらおうか!」
と、おどしていました。
さあ、これを見ていた吉四六さんが、思わず借金取りに言いました。
「やめろ! この人の借金をただにしてくれるなら、どんな事でもしてやるから」
するとそれを聞いた借金取りは、ニヤリと笑って言いました。
「ほう、吉四六さんか。
これは、面白い。
それなら向こうに見えている山を、この村まで引っ張って来てもらおうか。
それが出来たなら、借金をただにしてやるぞ」
山を持って来るなんて、出来るはずがありません。
ところが吉四六さんは、軽く胸を叩いて言いました。
「よし、わかった。
お前の言う通りにしてやる。
だから約束は、守ってもらうぞ」
それを聞いて、借金取りはあきれました。
「何を馬鹿な事を。いくらとんちの名人でも、そんな事が出来るはず無いだろう」
「いいや、出来るよ」
「なら、やってもらおう。あとで謝っても、許さんぞ!」
「そっちこそ、ちゃんと約束は守ってもらいますよ」
さて、吉四六さんは村人たちに訳を話して、どの家の軒下にも、あるだけのたき木を積み上げてもらいました。
それから荷車にたき木を山の様に積んで借金取りの家に行き、その軒下にもたき木を積み上げました。
すると借金取りが出てきて、怖い顔で吉四六さんに言いました。
「やいやい。わしが持って来いと言ったのは、山だ。たき木じゃないぞ」
すると吉四六さんは、たき木を積み上げながら、
「はい。
約束通り、山を持って来ますよ。
ですが山を引きずって来るのに、村の家々がじゃまになります。
だからその前に、家をみんな焼き払ってしまうのです」
と、言ったかと思うと、積み上げたたき木に火をつけようとしました。
借金取りは、びっくりです。
「ま、待ってくれ。この寒い時期に家を焼かれたら、生きて行けないだろう」
「そうです。
あの親子だって、家を焼かれたら生きていけません。
どうです?
あの人の借金をただにしてくれるのなら、山を持って来るのも、じゃまな家を焼くのもやめますが」
「むっ、むむむ」
「さあ、どうします?」
「・・・わかった、わかった。わしの負けだ。山を持って来なくてもいいし、借金もなかった事にしてやろう」
「ありがとうございます」
吉四六さんは、ニッコリ笑いました。
それを見た借金取りは、苦笑いで言いました。
「やれやれ、吉四六さんと勝負なんかするんじゃなかった」
おしまい
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