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2019年6月10日の新作昔話
まさかのはなし その2 「自分の頭を食べたヘビ」
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とんちの上手な人がいました。
きっちょむさんの村には話しを聞くのが何よりも好きなお金持ちのおじいさんがいて、以前、きっちょむさんにたのんで話しをしてもらったのですが、
「まさか、そんな事はありゃんすめえ」
と言わない約束に失敗して、きっちょむさんにお米を一俵(いっぴょう)取られた事があります。
→ 『まさかの話』
そのおじいさんが、またきっちょむさんに言いました。
「きっちょむさん、たいくつでたいくつで仕方ないんじゃ。何か話をしてくれんかな」
「まあ、しても良いですが、今度もまた話しの途中で『まさか、そんな事はありゃんすめえ』と、言わない約束をしてくれますか?」
「いいとも、いいとも。もしも言ったら、今度も米を一俵(いっぴょう)やろう」
「また、米ですか。前にもらった米にも手をつけていないので、今度は米ではなく、お金の方が」
「よし、それなら、こうしよう。ここに千両箱を置いて、もしもわしがその言葉を言ったら、その千両箱を持って帰ってもいいから」
おじいさんが本当に千両箱を用意したので、きっちょむさんは話を始めました。
「これはむかしの話ですが、あるところにクチナワというヘビがいました。
そのヘビは冬ごもりの準備に、どこからか手に入れた餅(もち)を巣穴に持ち込みました」
「ふむ、なるほど」
「そして冬になって雪がつもり始めた頃、ヘビは巣穴の中でその餅を食べようとしたんだが、何と餅と思っていた物は、実は餅に似た白い石でした」
「ふーむ、なるほど」
「外はすでに大雪なので、今さら食べ物を探しに行くことも出来ない。
こまったヘビは仕方なく、くるりと首を回して自分の尻尾を一口かじった」
「なるほど、なるほど」
「それからもヘビはお腹が空くと自分の尻尾をかじっていって、冬が終わる頃には、残っているのは頭だけでした」
「うーむ。まさか・・・」
おじいさんは言いかけて、危なく思い止まりました。
「体がなくなっては、春になっても動く事が出来ない。
そこでヘビは仕方なく、
『おらの命も、いよいよこれまでか』
と、言って、最後に残った自分の頭を、大きな口を開けてパクリと食べてしまったんじゃ。
こうしてヘビは、この世から消えてしまった」
これを聞いたおじいさんはすっかりあきれかえって、思わず言ってしまいました。
「まさか、そんな事はありゃんすめえ!」
するときっちょむさんは、ニヤリと笑って、
「はい、千両箱をありがとうございます」
と、千両箱をかついで帰って行きました。
おしまい
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