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ちょうふく山のやまんば
ささずんと昔話講座 第14話【ちょうふく山の山姥】
読者の「NS.MOOOON」さんの投稿作品。
知っているようで知らない日本昔話を、ゆっくりの解説でずんちゃんとささらちゃんが学んでいく動画です。
むかしむかし、ちょうふく山という山のふもとに、小さな村がありました。
このちょうふく山には、恐ろしいやまんばが住んでいると言われています。
ある年の十五夜の晩、村人たちがお月見をしていると、にわかに空がかきくもり、ちょうふく山から恐ろしい声がひびきわたりました。
「ちょうふく山のやまんばが、子どもを産んだで、もち持って来い! 来ないと、人もウマも食い殺すぞ!」
村人たちは、びっくりです。
そこでみんなで米を出し合って、大あわてで祝いのもちをつきました。
こうしてもちは出来たのですが、ところがみんなやまんばを怖がって、ちょうふく山にもちを届けようとはしません。
「お前が行けよ」
「とんでもない、おれには女房と子どもがいるんだ」
「おれもいやだぞ」
「じゃあ、誰がよい?」
「そうだ、いつも力じまんをいばっておる、かも安(やす)と権六(げんろく)に行かせたらどうだ?」
そこで二人が呼び出されたのですが、二人は、
「持って行ってもいいが、おれたちは道を知らねえぞ。知らねえところへは、持って行けねえぞ」
と、断りました。
すると村一番の年寄りの大ばんばが、進み出て言いました。
「わしが知っとる。子どもの頃、ちょうふく山でやまんばを見たことがあるでな。わしが、道案内をしよう」
こうなっては、かも安と権六も断れません。
二人は仕方なくもちをかかえると、大ばんばの後をついてちょうふく山ヘと登っていきました。
ちょうふく山の山道を進む三人に、なまあたたかい風が吹いて来ました。
「お、大ばんば、大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫」
「大ばんば。まだ行くんか?」
「ああ、もうちっと先だ。はやく行くぞ」
その時、さっと強い風が吹き付けて、不気味な声がひびきました。
「もちは、まだだかーーー!」
それを聞いたかも安と権六はびっくりです。
「ひえっ、出たあー!」
「た、助けてくれえー!」
二人はもちを放り出すと、たちまち逃げてしまいました。
「ああっ、これ、待たんか。・・・やれやれ、わし一人では、もちを運べんだろ」
仕方がありません。
大ばんばはもちを置いて、やまんばの家を訪ねていきました。
やまんばは大ばんばを見ると、うれしそうに笑いました。
「おう、ごくろうじゃな。実は昨日赤子を産んで、もちが食いとうなったんだ。そこで赤子にもちをもらってくる様に使いに出したんじゃ。して、もちはどこじゃな?」
大ばんばは、びっくりです。
あの恐ろしい声を出したのが、生まれたばかりの赤ん坊だったのです。
「はい、はい。持って来たども、あんまり重いので、山の途中に置いてきましただ」
これを聞くと、やまんばは赤ん坊に言いつけました。
「これ、まる。お前、ちょっと行ってもちを取ってこい」
すると、まると呼ばれた赤ん坊は、風のように飛びだしていき、一人で重いもちをかついで帰ってきました。
さすがは、やまんばの子です。
「それじゃあ、わしはこれで」
恐ろしくなった大ばんばが帰ろうとすると、やまんばが引き止めました。
「せっかく来たんだ。ついでに家の手伝いをしてくれ」
「・・・はあ」
大ばんばは嫌とも言えず、それから二十一日間、やまんばの家で掃除をしたり洗濯をしたりして働きました。
するとやまんばが、
「長い事、引き止めてすまんかった。それじゃ、土産にこれをやるべ」
と、やまんばは見事なにしきの布を大ばんばにくれたのです。
「ほれ、まる。大ばんばを、村まで送ってやれ」
言われたまるは大ばんばを軽々とかつぎあげ、あっという間に村に運んで行きました。
さて、大ばんばが村に帰ってみると、みんなは大ばんばが死んだと思って葬式の最中でした。
「大ばんば、生きていたのか!?」
「当たり前だ。そう簡単に死んでたまるか。それより、やまんばから土産をもらったぞ」
大ばんばはやまんばのにしきを、村人たちにも分けてやりました。
ところがそのにしき、切っても切っても次の朝には元の長さに戻るという、不思議なにしきでした。
それからと言うもの、そのにしきはこの村の名物となり、みんなはにしきを売って幸せに暮らしたという事です。
おしまい
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