2023年5月22日の新作昔話
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。 ある日の事、きっちょむさんの村に、山火事が起こりました。 さいわい、火はわずかばかり焼いただけで消し止めることが出来ましたが、火元は、たき火の不始末からだとわかったので、誰がたき火をしたのかと、庄屋さんは村のみんなを家に集めて調べました。 しかし、誰一人として、自分がやりましたと、名乗り出るものがありません。 それと言うのも、孝行者、働き者で通っている佐伍平(さごへい)が、山へゆりの根を掘りに行って、ちょうど火元のところで、たき火をしていたのを、きっちょむさんが仕事帰りに遠くから見ていたのです。 するときっちょむさんは、何を思ったのか、すばやく佐伍平のちょうちんを見つけてろうそくに火をつけ、 罪悪感に苦しんでいる佐伍平は、お礼も言わずに、逃げるように外へ飛び出しました。 庄屋さんは、ためいきをついて、 「ああ、困った事だ。今夜のうちに白状してくれれば、わしの方で内々にすませるが、明日まで分からないとなると、山火事を役所に届けなければならぬ。そうすると、たき火をしていた者を調べられ、その者は牢屋へ入れられてしまう」 「庄屋さん、大丈夫ですよ。犯人が泥棒でもない限り、今に戻ってくるでしょう。そして、ここには他の人がいないと分かったら、きっと白状してくれるでしょう」 そして、いきなり庄屋さんの前に手をついて、 「庄屋さん、お許し下さい! 山でたき火をして、不始末をしでかしたのは、わたしでございます」 「お前だったか。よく白状してくれた。なに、誰にでも失敗はある。それに、孝行者のお前の事だ、きっと、内々にすましてやるから安心しろ」 「はい、ありがとうございます。実は、みなさんの前で白状するのが恐ろしくて、黙ったまま家に帰りましたが、ちょうちんの火を消そうとすると、中に何かが光ったのでございます」 一分銀といえば、お米を一斗(いっと→一四キロ)も買う事の出来る大金です。 (さては、きっちょむさん。佐伍平が正直者だと見込んで、わざと一分銀をちょうちんに入れたのだな) 庄屋さんは佐伍平の火の不始末を内々にすませたあと、きっちょむさんに手みやげだと言って、お菓子と一緒に一分銀を返してやりました。 おしまい |
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