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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第28話
イラスト Smile STATION
雪女
むかしむかしの、寒い寒い北国でのお話です。
あるところに、茂作(しげさく)とおの吉という、木こりの親子が住んでいました。
この親子、山がすっぽり雪に包まれる頃になると、鉄砲を持って猟に出かけていくのです。
ある日の事、親子はいつもの様に雪山へ入っていきましたが、いつの間にか、空は黒雲におおわれて、吹雪(ふぶき)となりました。
二人は何とか、木こり小屋を見つけました。
「今夜はここで泊まるより、仕方あるめえ」
「うんだなあ」
チロチロと燃えるいろりの火にあたりながら、二人は昼間の疲れからか、すぐに眠り込んでしまいました。
風の勢いで、戸がガタンと開き、雪が舞い込んできます。
そして、いろりの火が、フッと消えました。
「う〜、寒い」
あまりの寒さに目を覚ましたおの吉は、その時、人影を見たのです。
「誰じゃ、そこにおるのは?」
そこに姿を現したのは、若く美しい女の人でした。
「雪女!」
雪女は、ねむっている茂作のそばに立つと、口から白い息を吐きました。
茂作の顔に白い息がかかると、茂作の体はだんだんと白く変わっていきます。
そしてねむったまま、しずかに息をひきとってしまいました。
雪女は、今度はおの吉の方へと近づいてきます。
「たっ、助けてくれー!」
必死で逃げようとするおの吉に、なぜか雪女はやさしく言いました。
「そなたはまだ若々しく、命が輝いています。望み通り、助けてあげましょう。でも、今夜の事を、もしも誰かに話したら、そのときは、そなたの美しい命は終わってしまいましょう」
そう言うと雪女は、降りしきる雪の中に、吸い込まれ様に消えてしまいました。
おの吉は、そのまま気を失ってしまいました。
やがて朝になり、目が覚めたおの吉は、父の茂作が凍え死んでいるのを見つけたのです。
それから、一年がたちました。
ある大雨の日、おの吉の家の前に、一人の女の人が立っていました。
「雨で、困っておいでじゃろう」
気立てのいいおの吉は、女の人を家に入れてやりました。
女の人は、お雪という名でした。
おの吉とお雪は夫婦になり、可愛い子どもにもめぐまれて、それはそれは幸せでした。
けれど、ちょっと心配なのは、暑い日差しを受けると、お雪はフラフラと倒れてしまうのです。
でもやさしいおの吉は、そんなお雪をしっかり助けて、仲良く暮らしていました。
そんなある日、針仕事をしているお雪の横顔を見て、おの吉は、ふっと遠い日の事を思い出したのです。
「のう、お雪。わしは以前に、お前の様に美しいおなごを見た事がある。お前とそっくりじゃった。山で吹雪にあっての。その時じゃ、あれは確か、雪女」
すると突然、お雪が悲しそうに言いました。
「あなた、とうとう話してしまったのね。あれほど約束したのに」
「どうしたんだ、お雪!」
お雪の着物は、いつの間にか白く変わっています。
雪女であるお雪は、あの夜の事を話されてしまったので、もう人間でいる事が出来ないのです。
「あなたの事は、いつまでも忘れません。とても幸せでした。子どもを、お願いしますよ。では、さようなら」
その時、戸がバタンと開いて、冷たい風が吹き込んできました。
そして、お雪の姿は消えたのです。
おしまい
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