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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第31話
二人の幽霊
むかしむかし、ある町に、色白で気の弱い、新兵衛という侍がいました。
弓も刀も駄目で、仲間からは腰抜け呼ばわりされていました。
さてこの町に、元は町一番の長者屋敷だったのですが、今は荒れ果てて幽霊が出るとの噂の屋敷がありました。
ある日、仲間の侍たちから、
「どんなに強い侍でも、一晩とおれんというぞ。お主なんか、門をくぐる事さえも出来まい。あはははははっ」
と、馬鹿にされた新兵衛は、
「そこまで言われては、何が何でも泊まってやるわ!」
と、家に帰って腹ごしらえをすると、おっかなびっくり幽霊屋敷へ出かけていきました。
草がぼうぼうの庭に入っていくと、さっそく人魂が西と東から一つずつ、すすーっと飛んで来ました。
「うひゃーっ、人魂が二つも!」
新兵衛は逃げ出したいのを我慢して、恐る恐る屋敷に入りました。
やがて、ろうそくの火がひとゆれしたかと思うと、
「うらめしやあ・・・」
と、髪の長い女の幽霊が、銀のお金の入った箱を抱いて現れました。
「で、出たー!」
新兵衛が震え上がりながらも何とかこらえていると、カギを手にした男の幽霊も現れました。
男女の幽霊が一緒に出て来るなんて、よほどの訳があるのでしょう。
新兵衛が思い切って、訳を聞いてみると、
「わたしたち二人は、この屋敷で働いていた者同士です。結婚の約束をしたのですが、主人がそれを許してくれません」
と、男の幽霊が語り始めました。
「そこで屋敷のお金を持ち出して、よその町へ逃げて暮らそうとしたのですが、主人に見つかってしまい、二人とも斬り殺されてしまいました。
そして別々のところに埋められ、今もそのままなのです。
わたしたちはそのうらみから、屋敷の主人にたたってやりましたが、未だに成仏出来ません。
どうかこのお金でお坊さんを呼んで、成仏させてください」
「・・・そうだったのか。わかった」
新兵衛が引き受けると、男女の幽霊は人魂になって、すーっと出ていきました。
座敷には銀のお金がずっしり入った箱と、その箱のカギが残されています。
あくる朝、新兵衛は幽霊屋敷の出来事を寺の和尚さんに伝えて、二人の供養をしてもらいました。
この話しを聞いた、この国の殿さまは、
「腰抜けどころか、新兵衛の働きは侍の鏡であるぞ。ほめてとらす」
と、褒美として、その屋敷を与えたそうです。
おしまい
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