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百物語 第43話

渡辺綱(わたなべのつな)と酒呑童子(しゅてんどうじ)

渡辺綱(わたなべのつな)と酒呑童子(しゅてんどうじ)
京都府の民話京都府県情報

 むかしむかし、あるところに、酒呑童子(しゅてんどうじ)という若者がいました。
 だれもが、ほれぼれするような色男で、毎日毎日、あちこちの女の人から、想いをよせる手紙が束になってとどきました。
「好きです。わたしと結婚してください」
「お願いです。結婚してください」
「家はお金持ちです。お金をあげますから、結婚してください」
 どの手紙にも、その様な事が書いてあるので、酒呑童子は手紙を開けようともしません。
 かといって捨てるわけにも行かず、酒呑童子は手紙をからびつという箱に入れておきました。
 けれどあるとき、からびつがいっぱいになったので、思い切って燃やしてしまおうと手紙に火を付けようとしたところ、大勢の女の人が手紙に込めた気持ちが白いけむりとなって、酒呑童子を包み込んだのです。
 すると、あれほどりりしくととのった顔が、みるみるうちに鬼のような顔に変わって、頭からは角まで生えてきました。
「何と言うことだ。女たちのうらみで、鬼にされてしまった。こんな顔では村のみんなも恐ろしがる事だろう。もう、ここにおれない」
 酒呑童子はこうして、丹波の国(たんばのくに→京都府)の大江山(おおえやま)に隠れ住み、そして大江山に住む鬼たちの大将になったのです。
 顔だけでなく、心まで鬼になった酒呑童子は、京の都に出かけて侍をおそったり、お姫さまをさらったりしました。
 さて都には、渡辺綱(わたなべのつな)という強い侍がいて、帝(みかど)から酒呑童子を退治するよう命じられました。
 ある晩、綱(つな)が羅生門(らしょうもん)へいくと、待ち伏せていた酒呑童子が、いきなり太い腕で綱をつかみあげました。
「グワグワグワーァ! おれを退治に来るとは、生意気な!」
 酒呑童子のものすごい力に、綱はもがきながらも、その右腕を刀で切って落としました。
「ウギャーーー!」
 腕を切られた酒呑童子が大江山へ逃げかえったので、綱は切り取った腕を屋敷へ持ち帰って、石のからびつにかくしておきました。
 あくる日のことです。
 綱の屋敷に、片腕の見かけないおばあさんがやってきて、
「鬼の腕をとったそうじゃが、ちょっと、見せてもらえんかのう?」
と、たのみました。
 怪しんだ綱がことわると、
「実は、わしの娘は鬼にさらわれたのじゃ。それに、そのときわしの右腕も。だからぜひとも、かたきの腕を見ておきたいのじゃ」
 おばあさんは、涙を流しながら訴えました。
 これに心を動かされた綱は鬼の右腕を取り出すと、おばあさんに見せてやりました。
「これが、娘さんのかたきの腕です」
 するとおばあさんは、その腕をすばやく自分の右腕につけて、たちまち鬼の正体を現しました。
「グワグワグワーァ! これで腕は元通りだ。これからは、もっと暴れてやるぞ!」
 酒呑童子はそう言い残すと、飛ぶようにして大江山へ帰って行きました。
「しまった! 酒呑童子がおばあさんに化けてくるとは。こうしてはおられん」
 綱はさっそく、帝に知らせました。
 そこで帝は都で一番強いと言われる、源頼光(みなもとのよりみつ)を呼んで、大江山の鬼退治を命じました。
 頼光(よりみつ)は、渡辺綱(わたなべのつな)をはじめ、卜部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光(うすいさだみつ)、坂田金時(さかたのきんとき→金太郎)たちを家来にして、大江山へ乗り込んでいきました。
 そしてようやく酒呑童子の岩屋にたどりついた頼光たちは、山伏(やまぶし)の姿に変装すると、
「わしらも鬼の仲間にしてくれ。土産に、うまい酒を持ってきたぞ」
と、見張りの鬼をだまして、岩屋に入り込みました。
 このときの土産の酒は、人が飲んだら力が五倍になり、鬼が飲んだら体がしびれて動けなくなるという、『神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)』というものです。
 酒を飲んだ鬼たちは、次々に体がしびれて動けません。
 山伏の正体に気づいた酒呑童子は、
「おのれ、ひきょう者め!」
と、頼光たちに襲いかかりましたが、酒呑童子も酒を飲んでいたため体が動かず、新羅三郎(しらんさぶろう)の刀で首をきられてしまいました。
 ところがその首が空中を飛んで、くるっと向きをかえたかと思うと、歯をむき出した恐ろしい顔で、新羅三郎のかぶとに噛みついたのです。
 そしてバリバリと音をたてて、かぶとを食いやぶりました。
 新羅三郎のかぶとは八枚かぶとといって、おおいが八枚もありました。
 酒呑童子の首は、そのうちの七枚までを食いやぶったのですが、あと一枚がどうしても食い破れません。
 そこで酒呑童子の首はもう一度空中に飛ぶと、頼光らに言いました。
「今回はおれの負けだが、いつか必ず仕返ししてやるぞ!」
 そして空高くに消えていきました。
 酒呑童子の首には逃げられましたが、こうして頼光らは大江山の鬼たちを退治したのです。

おしまい

※ この後、お話しは「酒呑童子」、「羅生門の鬼」と続きます。

おしまい

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