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百物語 第46話
幽霊にたのまれた治療
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むかしむかし、沖縄本島のある町に、お灸で病を治している先生がいました。
ある日の夜、先生は夜の散歩に出かけました。
そしてぶらぶら歩いているうちに、いつしか町はずれの橋のたもとの松林までやってきたのです。
「おや? これはまた、ずいぶん遠くまできたものじゃ」
松林をふきぬける風の音に、きゅうに寒気を感じたとき、目の前に三十歳ぐらいの背の高い女の人が現れました。
女の人は白い浴衣を着ていますが、顔はまっ黒に日焼けしていました。
(幽霊か? 幽霊なら、顔はまっ白と聞いていたが)
先生はそう思いながら、目の前にあらわれた女の人の顔を見つめると、女の人が言いました。
「先生ですか? 先生にお願いがあり、お宅へお伺いしようと思っていたのですが、つい、のびのびになってしまいました。じつは家に、寝たきりになっている父がいるのです。先生にぜひ、診ていただきたいのです」
先生は、この女の人が幽霊ではないようなので、ほっとしました。
「そうですか。ここへ散歩に来たのも何かの縁。あなたのお父上を診てみましょう」
先生は女の人に案内されて、道のすぐわきにある家に入っていました。
小さな家の中には、七十歳ぐらいのおじいさんが、ふとんに寝かされていました。
先生がおじいさんの脈をとろうすると、女の人が言いました。
「わたしは、七年前からここに住んでおります。わたしの名はウシヤ。生前に先生に病を治していただいたことがあります。それでは、父をよろしくお願いします」
「生前?」
先生が振り返ると、ウシヤという名の女の人も寝たきりのおじいさんも、たちまち消えてしまいました。
そして先生はなんと、松林の中にあるお墓の前に座っていたのです。
びっくりした先生は、おそろしさでガタガタふるえながら、自分の家へ飛んで帰りました。
次の日の朝、先生は昨日の晩に出会った女の人の顔と、ウシヤという名前を思い出しながら、治療日誌を調べてみました。
すると女の人は七年前に、むずかしい治療にきた二十八歳の人だったことがわかりました。
女の人は治療のかいもなく、まもなく亡くなってしまったのです。
ウシヤという親孝行の娘は、家にたった一人で残っている父親が病気になったので、ちょうど先生が自分のお墓の近くを通りかかったのを幸いに、先生に父親の治療を頼んだのです。
「なんと、親孝行な娘よ」
先生はさっそくウシヤの実家をたずねていって、父親の治療をしてやったという事です。
おしまい
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