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百物語 第47話
口をきく人形
京都府の民話 → 京都府情報
むかしむかし、江戸城につとめる役人に、菅谷次郎八(すがやじろはち)という若い男がいました。
次郎八は江戸の浅草で、よくお酒を飲んでいましたが、いつしか白梅(しらうめ)という店の女性と恋仲になりました。
ある年の春のことです。
次郎八は、京の都にある二条城(にじょうじょう)へのつとめ番がまわってきて、しばらく江戸を留守にすることになりました。
京に行った次郎八は、白梅に会えない寂しさからか、ねむれない夜が続きました。
そこで白梅に夜ふけまで手紙を書いては江戸へ送りましたが、手紙のやり取りだけでは満足できません。
そこで次郎八は腕のたつ細工師(さいくし)にたのんで、白梅そっくりの人形をつくってもらうことにしたのです。
白梅と同じ大きさの人形は、とてもよく出来ていて、お腹の中へお湯をそそぎこむと、つめたい人形が本当の血がかよった人間のように温かくなる細工がされていました。
次郎八はさっそく白梅の人形をとなりに寝かせると、つもる話をしはじめました。
ところが不思議なことに、次郎八が話しを始めると、となりにいる白梅の人形が口を動かして、次郎八の言葉に頷くのでした。
次郎八は、びっくりして起きあがると、
「ぬぬっ、人形が口をきくわけない。さてはキツネかタヌキが人形にのりうつって、おれをからかっているのだな! よりによって白梅の人形にのりうつるとは、許せん!」
次郎八は枕元に置いてある刀を手にすると、白梅の人形をまっぷたつにしてしまったのです。
さて、それから数日後のこと、江戸の友人から急ぎの手紙が届きました。
その手紙を読んだ次郎八は、手紙の内容にびっくりしました。
なんと手紙には、次郎八が人形をまっぷたつにした日の同時刻に、遠くはなれた江戸の白梅が、お客にとつぜん胸をさされて死んでしまったと、書かれていたのです。
おしまい
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