福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第51話
牛鬼 大晦日
むかしむかし、ある海辺の村に、貧乏な夫婦がいました。
二人は毎日、浜に出て魚をとったり貝をほったりしては、それを売ってくらしていました。
ある年の、大晦日の事です。
普通なら仕事を休んで、お正月の支度をするのですが、貧乏な二人はいつもと変わりなく浜へ出かけました。
冷たい風が吹くなか、二人が魚や貝をとっていると、いつしか日がくれてきました。
そのとき、風にまじって、
「モォーーーッ!」
と、不気味な声が聞こえました。
「おや、なんだろう?」
二人が声のした海の方をながめると、頭が牛で体が鬼の体をした化け物が波間から姿を現して、こちらに向かってくるではありませんか。
「逃げろ! 牛鬼だー!」
二人は魚も貝も放り出して、一目散に逃げ出しました。
「モォーーーッ!」
牛鬼は長い首を振りながら、逃げる二人を追いかけてきます。
「もうすぐだ! はやく家に入れ!」
二人はやっとの事で漁師の小屋に逃げ込むと、急いで戸を閉めました。
逃げ込んだ二人がガタガタとふるえていると、牛鬼は小屋のまわりを何度もまわったすえ、いかにも残念というように、
「モォーーーッ!」
と、ひと声うなると、海へ帰って行きました。
二人はあまりの恐ろしさに、しばらく口がきけませんでした。
この出来事があってから、村の人たちは、
「大晦日に浜で仕事をすると、牛鬼が出る」
と、恐れて、大晦日は海に近づかなくなったそうです。
おしまい
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