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百物語 第52話
ヌエ(鵺)
京都府の民話 → 京都府情報
むかしむかし、京の都の御所の林で、夜になるとヌエというあやしい鳥が、気味の悪い声で鳴いていました。
不吉な鳴き声なので、御所の人たちは源頼政(なみもとのよりまさ)という弓の名手に、ヌエを討ち取る事をたのみました。
頼政は、一一五三年(→仁平(にんぴょう)三年)五月二十日に御所へやってきました。
そして、ヌエがあらわれる夜になるのを待っていました。
やがて夜もふけて、あたりはふかい闇につつまれました。
「こんなに暗くては、ヌエがどこにおるのかわからない。さしもの頼政も、討ち取ることは出来ないだろう」
御所の人たちは心配していましたが、頼政には考えがありました。
頼政は、夕方にヌエの鳴き声が聞こえていた林の前にいきました。
そして鳴き声が聞こえた方角にむかって、まず大きなうなりをつけた矢を放ちました。
ビュュュューーーーー!
矢は大きな風音をたてて、闇の中へすいこまれていきました。
するとその音におどろいたのか、ヌエが羽音をたてて、まっ暗な空へ舞いあがったのです。
その羽音をたしかめると、頼政は力をふりしぼって、すかさず二の矢を放ちました。
すると闇の空から、矢に射ぬかれたヌエが落ちてきたのです。
頼政の見事な腕前に、どっと歓声があがりました。
人々はさっそく、射落とされたヌエのそばに駆け寄りましたが、その奇妙な姿を見てびっくりです。
そのヌエの姿は、頭はサル、体はタヌキ、手足はトラ、しっぽはヘビだったのです。
「これはめずらしい生き物だ。よし、都の人々にも見せてやろう」
そこで御所では、このヌエを京の町の人たちに見せることにしました。
ところがそれからすぐに、疫病がはやりだしたのです。
「この疫病は、ヌエのたたりかも知れない」
おそれた役人たちは、ヌエを川へ流しました。
そしてそれが流れついたのが、大阪の都島だったのです。
京の町の噂を聞いていた都島の人たちは、たたりをおそれて、すぐにヌエを塚に埋葬しました。
それが今も大阪の地下鉄都島駅の商店街裏手に残る、都島のヌエ塚なのです。
おしまい
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