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百物語 第62話
もちの好きな山姥(やまんば)
むかしむかし、あるところに、小さな村がありました。
山あいの村なので、お米がろくにとれません。
それでも村の人たちは、お正月が近くなるとそのお米でもちをついて、神さまにそなえたり、自分たちで大事に食べたりしていました。
ところがこの村の山には、もちの大好きな山姥(やまんば)がいて、もちつきが終わる頃になると、
「もち、食わせろ!」
「もちよこさねえと、暴れるぞ!」
と、言いながら山からおりてきて、大きな手を突き出すのです。
村の人たちが、しかたなくやると、
「もっと、食わせろ!」
「もっと、よこせ!」
と、何度も何度も催促(さいそく)するのです。
困った村の人たちは、庄屋(しょうや)のところへ相談をもちかけました。
「何とか、ならんもんじゃろうか?」
「そうだな。うまくいくかどうかわからんが、わしに考えがある。ひとつ試してみるか」
すると庄屋は、庭でもちを焼きはじめました。
でも本物のもちはひとつだけで、あとはもちに形のよく似た石です。
本物のもちが焼けてくると、そのにおいをかぎつけた山姥が、
「もち、食わせろ!」
と、山からかけおりてきました。
「ああ、今日はいくらでも食っていいぞ。どのもちがいい?」
「どれでもええ。焼けたやつから、はよ食わせろ」
「よしよし。では、一番でっかいのをやろう。さあ、口をいっぱいに開けてくれ」
「あーん」
庄屋は熱く焼けた石を火ばしではさむと、山姥の口に放り込みました。
すると、
「ギャーーーーー!」
口を大やけどした山姥は泣きながら山へ逃げ帰り、二度と村へ来ることはありませんでした。
「さすがは、庄屋さんじゃ」
「めでたい、めでたい」
村の人たちは、大喜びです。
さて、次の年の春。
庄屋の屋敷で働いている娘が屋敷の前の川で洗い物をしていると、山姥が住んでいた山の方から珍しい形の種が流れてきました。
「あら、庄屋さま。これは何の種でしょうか?」
「さあ、見たこともない種だな。よし、ためしに育ててみよう」
庄屋はその種を庭にうめて、せっせと水をやりました。
すると可愛い芽が出てきて、だんだんに茎を伸ばし、青々とした葉っぱを広げて、夏のある夕方、朝顔のような形の赤い大きな花を咲かせました。
「こりゃあ、見事じゃ。これほどの花は見たことがない」
喜んだ庄屋が花に顔を近づけてながめていると、その花はたちまち山姥の恐ろしい顔になって、
「パクリ!」
と、庄屋を飲み込んでしまったのです。
おしまい
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